版元さんリレーエッセイ

　筑摩書房営業部の久保と申します。有り難いご縁でメトロ書店さんの担当をさせていただき、はや一年ですが、実は二〇二三年の春までは国語教科書編集部に在籍しており、書店で本を買い込んでは教科書に載せたい文章を探す日々を送っていました。

　国語教科書を作るのは、アンソロジーを作るのに似ています。誰の、どんな作品を、どんな順番で載せるのか…。教科書もアンソロジーも、そこに思いがこもっています。一九世紀の美食家・ブリア＝サヴァランは「君が食べているものを言ってみたまえ、君がどんな人間か当ててみせよう」と豪語したそうです。私は作家さんのアンソロジーを読むのが大好きですが、それはアンソロジーが、その編者の作品よりも編者のことをよく教えてくれる気がするからかもしれません。

　そんなわけで（？）、この場をお借りして私の大好きなアンソロジーを紹介したいと思います。それが、下手な自己紹介よりも私のことをお伝えするよすがになると信じて…。

●ケン・リュウ編『折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー』（ハヤカワ文庫）

『三体』を挙げるに及ばず、勢いめざましい現代中国のSF小説集。その圧倒的想像力は、「西遊記や水滸伝の国がSFを書けばこうなるよね…」と納得のスケール感。一方で一抹の抒情をたたえた作品も多いのは編者ならでは。

●『ボルヘス怪奇譚集』（河出文庫）

幻想文学の巨匠が集めた九二編の超短編。神々と怪物と夢に満ちた、本の形をした迷宮です。

●伊坂幸太郎編『小説の惑星 オーシャンラズベリー篇』（ちくま文庫)

最後の一冊は小社から…。伊坂幸太郎さんが「小説の凄さ」を伝えるために編んだ、短編小説のドリームチーム。複雑ド派手な現代小説から、短編の名手による古典的名作まで、小説という魅惑の星の案内書です（姉妹編「ノーザンブルーベリー篇」も）。

お店にお邪魔した際には、ぜひ皆さまのお気に入りのアンソロも教えていただきたいです。

【久保研太郎様プロフィール】

一九八三年生まれ。大学卒業後、教材製作会社で小論文の添削指導を行う。二〇一三年に筑摩書房入社、高校生用の国語教科書編集に関わる。二〇二三年より同社営業部所属。三歳児と一歳児に絶賛振り回され中です。

＊編集部より：久保様楽しいエッセイをありがとうございました。アンソロジーが自己紹介代わり楽しいですね！