版元さんリレーエッセイ

2023.9.5 第353号

幻冬舎 ウェブメディア幻冬舎plus 編集長 竹村優子様

このエッセイをつないでくださった小林えみさんも出演者だったものの体調不良でそれがかなわなかったトークイベントで、担当した本の舞台裏を思いのほか饒舌に語ることができ自分で驚いた。

話したのは、宮沢章夫さんの『「資本論」も読む』と、上野千鶴子さん、鈴木涼美さんによる『往復書簡 限界から始まる』。 宮沢さんの本は、新卒で入った月刊ビジネス誌で、編集長が「ひとつだけ好きな連載をやってもいい」と言ってくれたので、まっさきに宮沢さんに依頼したことが始まり。

『往復書簡 限界から始まる』は、2020年春のコロナが本格化する気配のなか、悔いがないように考えていた企画を実現させようと、上野さん、涼美さんにご連絡を差し上げたのだ。

編集者になって25年。ランキングやデータを見たりしながら狙いを定めて本を作ることにずっと憧れている。それは私がいつになっても「個人的な思い」で本を作ってしまうからだ。

そんなとき、『ラジオビジネス英語』8月号のこんな会話に胸をつかまれた(英語学習も悔いのないようにとコロナ禍で始めたことのひとつだ)。

All of us have personal motives—-people we wish to help,countries we have attachment

to.That’s what makes everything personal.

(私たちはみんな個人的な動機がある。助けたい人、思い入れのある国。それがあるから、すべてのものに個性が出る)

本が売れると、それが正解のように思えるけれど、その方法(テーマやタイトルやカバー)がずっと使えるわけでも、どの本にも当てはまるわけではない。

それにひとりの著者の同じ原稿でも担当する編集者が違えば、まったく違ったふうに出来上がる。

あるいは、同じ本でも読む人によって違う印象だったり、同じ人でも、若いときと年を重ねたときでは、受け取るものがまったく違ったりする。

本はただの紙の塊ともいえる。でも、時間を超えて、いつでも、どこでも自在に個人に寄り添ってくれるところに無限の可能性を感じている。

【竹村優子様プロフィール】

大学卒業後、実業之日本社へ。WAVE出版を経て、現在は幻冬舎でウェブメディア幻冬舎plus編集長を務めつつ、単行本、新書、文庫の編集に携わる。担当書籍は、『しらふで生きる』(町田康)、『往復書簡 限界から始まる』(上野千鶴子・鈴木涼美)、『浅草ルンタッタ』(劇団ひとり)など。

*編集部より:竹村様素敵なエピソードをありがとうございます。『ラジオビジネス英会話』の言葉も良いですね。