ぶくぶくコラム

2023.5.5 第349号

東京都 H・T様

社会人になって2年目くらいの頃合いだっただろうか。新しいジャンルとか、知らない作家さんの本を選ぶのに尻込みしてしまう、結局いつも悩んで悩んで同じようなジャンルばかり手を伸ばしてしまう、と感じる日々があった。 

 他愛もない相談としてそんな話をしたときに、 先輩が言ってくれたことがとても印象に残っていて、この季節になると今でも度々思い出す。

 「今日のランチをいつもと違うタイプの店にしてみよう、みたいな気持ちで選んでみるようにしてる。だいたいの本は、どんなジャンルだって、出版されてるからには栄養があって何かしら血肉になるはず。だから最悪の場合、お口にあわなかったとしても大丈夫かなって。」

 

ちょっと気取った感じの用意していたような回答が来て、その場では、なるほど顔で頷くことしかできなかった。帰路その言葉をかみしめながら、「いやいや、娯楽に属する読書と生活に関わる食事とは若干ニュアンスが違うんじゃ」などと思ったりもした。でも、 言い得て妙なところも確かにあるなとも思ったのだ。本だってランチだって、いまいちなチョイスがあったとしても、ずっと後悔し続けたりすることってないし、新しく自分の好きなものを知れたときの嬉しさの方が記憶に残ったり、その後もずっと自分の選択肢の一部になったりするよな、と。何より、血肉になるという表現はやっぱり素敵で、どんな本を選んでもいいんだと、心を軽くするおまじないのようでありがたい。

 それからというもの本屋さんに行く時、書店の店頭POPは料理長直筆おすすめメニュー表だと思ってみたり、新刊棚は今日のおすすめだと思ったりするようになり、本選びが随分楽しく、気軽になった気がする。最近では、学生時代にはお口に合わないだろうと思っていた歴史小説にハマっていて、吉川英治先生の『新・平家物語』シリーズを読んでいるから自分でも驚きだ。

タイパとコスパがやたらに求められる時代。時間もお金も限られているけれど、自分が積み重ねてきた好きなものの選択肢も大事にしながら、時には新しい選択肢に飛び込んでみる柔軟さを忘れず、新しい本との出会いを楽しめる軽やかな自分でありたいなと思う。

編集長より:H・T様嬉しいコラムのご投稿ありがとうございます。H・T様からは以下のメッセージも頂きました。本当にありがとうございます。

「メトロ書店さんの【シーン別おすすめ本特集】や【本の定期便】は、より手が込んであって、「こんな気分だから、あれが食べたい」に寄り添ってくれたり、「これが好きなら、あれも似てるのでお好みだと思いますよ」なんて逆提案してくれる専属料理人みたいな、とても素敵なサービスだと楽しく拝読させていただいております。引き続き更新を楽しみにしております。」