ぶくぶくコラム

2023.3.5 第347号

福岡市 K・H様

 最も古い本の記憶は五歳くらいだろうか。

ベビーブーム世代で子どもが世にあふれていていたし、ネット環境なんてないので、昔はスーパーのレジ付近にも絵本コーナーがあった。

 私もスーパーで買った絵本を毎晩母に読んでもらっていた。

 印象的なのは、「アルプスの少女ハイジ」だった。おじいさんと二人で山にいたいハイジが大富豪の娘で足の悪いクララと親しくなりクララの家で共に生活するようになる。

 その家で雇われている家庭教師のロッテンマイヤーさんという女性がとにかく厳しい。幼い私には彼女ばかりが気になり、母いわく、「ロッテンマイヤーさん、怖いね」とばかり言っていたらしい。

クララが山で立てるようになったエピソードの感動よりも、ロッテンマイヤーさんのハイジへの厳しい礼儀作法指導の方が記憶に残り、同じ方向性で万人が同じ本を読む訳ではないから、やはり本はアートだ。読む人によって感動が違う。

 読書中、無意識に集中し想像力がフル回転にていい気分になると気づいてから、手元に本がなかったことがない。

 中学校の頃、反抗期真っ盛りの時期にミヒャエル・エンデ作の「モモ」に出会った。

 時間泥棒の男たちから人類に時間を取り戻してくれたモモという少女を中心とした物語だ。

 人生で一番読んでいる本だ。ともかく読んだ。悩んだ時、苦しい時、本を開き、ページをめくり続けた。

 人生は、結局時間でできているから、自分から自主的に動かなければと読む度、思った。

 読書は、食事と同じだ。そう認識してから人間性にも磨かれていくし、人生を変わり始めるのではないだろうか。

 本は、どんな時も人を支えてくれる友人、かつ命綱にもなる。辛い時は本屋に行こう。たくさんの本が人類をまってくれている。

書籍名 モモ
著者 ミヒャエル・エンデ/著 大島かおり/翻訳
出版社 岩波書店
価格 880円
概要 町はずれの円形劇場あとにまよいこんだ不思議な少女モモ。町の人たちはモモに話を聞いてもらうと、幸福な気もちになるのでした。そこへ、「時間どろぼう」の男たちの魔の手が忍び寄ります…。「時間」とは何かを問う、エンデの名作。
ISBN 9784001141276