ぶくぶくコラム

2024.11.5 第367号

熊本市 H・K様

竜宮城の玉手箱


 小惑星探査機「はやぶさ」が小惑星「イトカワ」に着陸して、2010年にサンプルを地球に持ち帰った話を覚えていますか。

 当時は、「はやぶさ」に降りかかる様々な困難を乗り越えてサンプルを持ち帰った物語に注目が集まり、映画化もされました。その後、「はやぶさ2」が、小惑星「リュウグウ」に着陸して、2020年に地球にカプセルだけ帰還し、再び次の惑星へと旅立ちました。このようなプロジェクトの目的は、持ち帰ったサンプルを調べることにあります。

 そこで、「はやぶさ2は何を持ち帰ったのか」という本を紹介します。著者の橘 省吾先生は、宇宙化学がご専門の東京大学宇宙惑星科学機構の教授で、「はやぶさ2」の試料採取や分析の責任者であります。この本の最初におもしろいたとえ話があります。西遊記は三蔵法師がお供を連れて天竺に経典を取りに行く物語ですが、天竺が小惑星で経典がサンプルに相当します。

 小惑星「イトカワ」と「リュウグウ」の違いは何でしょうか。それは、「リュウグウ」の岩石には、「生命を構成する材料の起源」となる有機物と水分が含まれていることがわかりました。これを聞くと、「生命の起源」が小惑星にあると飛躍して考えそうですが、たとえ材料が地球に運ばれたとしても、それらを組み合わせて生命を生み出すために膨大な試行が繰り返されなければなりません。また、「リュウグウ」が太陽系の外側から地球近傍の内側の軌道へと移動し、その間の太陽系の歴史がサンプルに刻まれていることもわかりました。

 地球の海の起源を探るために「竜宮城」をイメージし、浦島太郎が持ち帰る「玉手箱」である「カプセル」にセルフサービスでお土産のサンプルを詰めて地球に帰還したわけです。一般公募で決まったとはいえ宇宙探査プロジェクトの命名は、とてもユーモアがあってセンスがいいなと、いつも感心させられます。

 ぜひ、この本を通じて宇宙探査に予算をかける意義を知ってほしいと思います。

書籍名 「はやぶさ2」は何を持ち帰ったのか : リュウグウの石の声を聴く
著者 橘,省吾
出版社 岩波書店
価格 1,650円
概要 小惑星リュウグウに着陸し、試料の入ったカプセルを地球にもたらした探査機「はやぶさ2」。リュウグウの石は、実に様々なことを語ってくれる。この小惑星と太陽系の歴史。海や生命の材料は地球の外にありえたのか。採取装置の開発を担当し、持ち帰られた試料の初期分析を統括した著者が、リュウグウ試料分析の成果を語る。
ISBN 9784000297240