今日へとつながる私と本の関係。そのはじまりはおそらく小学生の頃の体験でした。寝る前におばあちゃんから読んでもらった童話の本、貸し出しカードに“好きなあの子”よりも先に名前を残したいがために無理に読んでいた図書室の本も思い出されますが、それよりも懐かしく思い出すのは、薄暗やみの中で手にしたホコリだらけの本です。
ほぼ毎週末に実家から通った母方の祖父母の家の隣には、納屋として使っていた古い建物がありました。木造2階建てのその建物には昔の家具、いまは使われなくなった道具などがホコリをかぶったまま置かれていて、私にとっては映画「グーニーズ」の屋根裏部屋を探索するワンシーンのように、ドキドキしながら機会があれば忍び込んで遊んでいました。
そこで出会ったのがボロボロの本棚でした。かつて子どもだった頃の祖父のものと思われる週刊誌や、小説の単行本、文庫などが無造作におかれ、ぺージを開かれるのを待っているかのようでした。本のタイトルや内容はすっかり忘れてしまったのですが、祖父がかつて読んだであろう本を、時代をこえて手にしたその感覚だけは覚えています。
その後、大学の卒論を書く際に、古い論文や書籍を調べるために足をふみ入れた図書館の閉架書庫でも同様の経験をしたのでした。いったいどれだけの人が読むのだろうか? と疑問を持つような専門書や、聞いたこともない今は無き出版社から刊行された資料集がうっすらとホコリをまといながら並び、時代をこえて読まれる時を待つ本の存在に圧倒されたことを覚えています。
いつか誰かの役に立つ本、いま出さなければ世に残ることのない本を刊行し、必要とするひとへと手渡していく出版の仕事。その大切さを知らず知らずのうちに肌で感じていたのだと思います。
書店の店頭で出会う本は、誰かの思いをのせた特別な一冊のはず。ぜひメトロ書店で目の前の本を手にとってみてください。それはあなたにとっても、時代をこえて大切な一冊になるかも知れません。
【山田良亮様プロフィール】
新泉社営業部 1979年、青森県八戸市生まれ。本とは直接関係のない職業を経て、2006年に新泉社へ入社。人文書、社会科学書をおもに刊行する小さな出版社の営業部員として働いています。
*編集長より:山田様素敵なエッセイをありがとうございます。