版元さんリレーエッセイ

2024.7.5 第363号

現代書館 須藤岳様

 出版社の営業部員として初めて書店さんを訪問した時、既に31歳になっていました。20代の頃に勤めていた会社の先輩が、「書店営業なんてお前にできるのか!? 大丈夫かよ!」と呆れていたのをよく憶えています。「たしかに、飛び込み営業なんて自分にはとても無理だよなぁ……」と途方にくれました。

 それから18年の歳月が流れ、今秋には50歳になります。子どもの頃に抱いていた「50歳の大人」のイメージに比べると、貫禄ゼロの自身の姿に泣けてきますが、出版社の社員だからこその経験をそれなりに積み重ねてきたことは、現代書館に感謝しなければと思っています。

 加齢に伴い随分図々しくもなりました。平生、アルコールの力を借りないと、なかなか他者とコミュニケーションをとる意欲が湧いてこない(9歳の息子たちから「パパ」と呼んでもらえず、「ハイボールおじさん」「酔っ払い!」などと悪罵を浴びる始末……)にもかかわらず、どういうわけか、相手が書店員さんだと、素面で会話することがまったく苦になりません。いつの頃からか、書店員さんから色々教わることが嬉しくて仕方なくなりました。膨大な業務量を抱えている書店員さんにゲラを読んでもらったり、新刊書の帯に推薦コメントを寄せてもらったり、よくもまあ、手前勝手なお願いばかりしてきたものだと今さら冷や汗をかいています。

 それは幸福な来し方であった半面、親切にしてくれた書店員さんの多くが退職を余儀なくされたり、恐るべきペースで書店さんが閉店し続ける中、これ以上、書店員さんの善意に甘えることは許されず、自らの行く末も厳しく問われます。

 子どもの頃から何事においてもひどく奥手で、周りのみんながたやすくやってのけることが自分だけ出来ない……そんな心細い日々を送る中、書店員さんたちとの対話が大きな支えになったことへの感謝と、それに報うことができなかった痛恨を胸に、今日も通勤電車に揺られています。

【須藤岳様プロフィール】

26年に現代書館に入社。営業部員ですが、たまに『野党第1党』(尾中香尚里 著)など政治の本をつくります。趣味は、ハイボールを吞みながら選挙の開票速報を見守ること。週末は、小学4年生の双子が所属する野球チームで球拾い。

*編集長より

須藤様楽しいエッセイをありがとうございます。ご自分のことを奥手だとおっしゃる方に限ってそうとは限らないことを奥手の私は知っています。