ステンドグラス

2022.6.5 第338号

「父の日に寄せて」

メトロ書店副会長 川崎紀子

「男というものはね、外で威張っていても家の中では威張らないものだよ。だから僕は家では皿も洗うし片付けもする。家で威張る男は外で威張れないやつなんだよ」

 ちょっとしたつまらないことでいつも機嫌を損ねていた実家の父とは大違いだとホッとしたことをおぼえている。

新婚当初の数ヶ月間、私達は東京文京区の西片町に住んでいた。義父は出張で上京するといつも学士会館に泊まっていて、ある時新橋演舞場の芝居に行こうと誘ってくれた。演劇なんて観たこともなかったので、初めての体験だった。 演目は確か「桐の花咲く」だったと思う。義父と二人で並んで観劇した。ご贔屓の女優さんが出ていたのだろうか?あまり良くおぼえていないが後にも先にも現代劇を観たのはこれだけだ。

男の子しか育てたことがない義父からは娘のように可愛がってくれた。実の父より何でも話せて分かってもらい、仕事のことや経営理念も教えて貰った。

晩年、岩波書店の歴史のシリーズが20数巻刊行され、定期的に購入していたが、「紀子さん、老い先短い僕がなぜこのシリーズを読んでいると思う」と訊かれた。はてな?と考えていると「面白いからだよ」とニッコリ。

頭脳明晰でユーモアのある楽しい義父であった。