メトロニュース
今月のメトロニュース
Back Number
2016年
2015年
2014年
2013年
2012年
2011年
2010年
2009年
2008年
2007年
2006年以前
 
原稿募集中!!
Metro Group Links
メトロ書店
メトロブッククラブ
MMCメトロミステリー倶楽部

 
今月のメトロニュース
2016.11/11発行 No.258  
特集 版元さんリレーエッセイ ステンドグラス

版元さんリレーエッセイ

「筑摩書房編集局 山本 拓様」

毎年恒例の夏の暑さと異様な湿度に身の危険を感じながら日々を過ごしていた頃、『リオデジャネイロに降る雪』(福嶋伸洋著、岩波書店)という不思議なタイトルの本に出会いました。ちょうど世間がリオ五輪の話題で沸いていた頃に発売されたものです。著者がリオに留学していた時の思い出を叙情的に綴った本で、表紙も文章も本当にいい。リオでは、人々の間に年齢の垣根がなくて、二十代と六十代が普通に「友達」になれることだとか。パーティがあれば誰ともなく人が集まってしまうこと。愛を告白することを大切にする文化があること。私を遠くどこかに連れて行ってくれるようなことが沢山書かれていました。心が解けていくような、温かく、とても人間らしい本です。

 長崎には一度訪れたことがあります。教会巡りをして、坂の上から夕陽を浴びる街並みを眺め、この一つ一つのなかに人々の生活が、人生があるのだ、これらの家はその輪郭なのだと感慨を覚えました。

 幸いなことに、私たちはふだん、生きるとか死ぬとか、そうしたほんとうのことを忘れがちになります。レベッカ・ブラウンの『体の贈り物』(新潮文庫)は、エイズ患者の世話をする派遣ソーシャル・ワーカーが、死を間際にした患者たちと心を通わす様子を描いた短編集です。いかにもお涙頂戴の設定だと思われるかもしれませんが、この小説は人の弱さ、傲慢さ、ぎりぎりのところでふんばる強さ、優しさ、そうしたすべてを繊細に描いています。最良の小説には、私たちがふだん生活の影に隠れて忘れかけているものを痛いくらいに思い出させてくれる効果があります。

 チャールズ・ブコウスキーは「ハードボイルド作家」「酔いどれ詩人」などと呼ばれて、いかにも男臭いロマンを体現した作家のように言われています。しかし、彼の遺作探偵小説『パルプ』(ちくま文庫)を読むと、彼がいかに単調な日々の繰り返しのなかにこそすべてがあると感じていたかがわかります。
とびきり美人の宇宙人や死神が出てくるハチャメチャな探偵小説ですが、主人公の探偵は必ず毎日「オフィス」に通います。毎日律儀にオフィスに通う様子はまるでサラリーマンのようです。彼はいつも自分はもうすぐ死ぬんだという思いに苛まれて生きています。しかしオフィスに通うことはやめない。そこにこそ彼の暮らしがあるから。私も毎日オフィスに通いながら生きている人間の一人として、この本を多くの人に読んでほしいと思いました。

 

『リオデジャネイロに降る雪』
福嶋伸洋
(岩波書店、1,944円)
『体の贈り物』
レベッカ ブラウン
(新潮文庫、562円)

『パルプ』
チャールズ ブコウスキー (ちくま文庫、907円)

 

山本様ありがとうございました。いかにも筑摩書房さんらしい文章、楽しく読ませて頂きました。次号は初・小学館大貫さんの予定です。どうぞお楽しみに。



【筑摩書房編集局  山本拓様プロフィール 】

筑摩書房編集局第一編集室

1984年北海道函館市生まれ。音楽、哲学、海外文学などが好きです



 
メトロニュース編集部 〒850-0862 長崎市出島町5-2 川崎興産株式会社メトロ書店 本社ビル1F
TEL:095-826-0433 FAX:095-824-6977 news@metrobooks.co.jp
Copyright 2008-2012 Metro News All Rights Reserved.