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メトロニュース
2013.8/9発行 No.219  
特集 版元さんリレーエッセイ ぶくぶくコラム ステンドグラス

ぶくぶくコラム
北九州市 吉田正太郎 様 『盗み見』

私と本との出会いは遠く30年前に遡る。私の家は古い百姓家で、何でも祖父が日露戦争に出征するのに、急ごしらえで造ったものらしい。その家の「屋根裏部屋」、いかにも陽の当らない、陰気臭い、もっと言うと、埃の匂いしかしない部屋が、私の母を含めた叔母達4姉妹の「子ども部屋」だった。そこは梯子でしか登れない。もちろん小学生の私は母の母、すなわち祖母から厳にその部屋への立入を禁じられていたし、入って見たくもなかった。入口は異世界への坑道のように、裸電球の下にあり、少年の私には恐れ多かった。
  その坑道を先に進みたくなったのは、ある年の梅雨時期のことである。今と違い、ゲームの類が頻繁にあるわけではなく、テレビの再放送の時代劇にも嫌気がさしていた。雷が轟き始めたころ、ふと、「子ども部屋」に入ってみたくなった。ヒマで暇で仕方がないというのが半分、冒険心・好奇心・怖いモノ見たさがもう半分だった。頭にヘルメット、軍手にコンパスと言うわけにはいかなかったが、祖母の目を盗んで懐中電灯だけは揃えた。いざ、たった数メートルの歩みで見たものは、埃が地層と化していて、机、椅子、本棚、教科書、文庫本、雑誌がほぼ手つかずで、まるで、洞窟の中に隠されたお宝を見つけた様であり、そこだけ静寂に時が止まっていた。
  私は、まるでイケナイものを見るかのような心持がしていた。何日も続く梅雨の季節、学校から帰ると、家の手伝いもせず、何も食べず、ただその部屋へ忍び入って本を盗み見た。雨音が隣家のトタン屋根を鳴らす音が私を諌めに来る家人の足音に聞こえたりして、心臓の鼓動が外へ聞こえるのではないかと思う位、興奮と緊張を覚えた。
  そこに置き去られた本が語るのは、ちょっぴりオトナな描写のある未知の次元だった。外は梅雨空、部屋は薄暗い。小と大、子と個を行ったり来たりする多感な時期、その空間から外に出なかったし、出たくなかった。
  私の読書はそんな梅雨時の「盗み見」から始まった。今でもこの季節、書店に行くと、子どもであり、ちょっぴり大人なあの頃を思い出す。

編集部より
吉田様、素敵な、ドキドキするような読書の記憶をありがとうございました。
 
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