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2011.8/5発行 No.206  
特集 版元さんリレーエッセイ ぶくぶくコラム編集後記

ぶくぶくコラム
(長崎県 P.N.ゆき様)
 空気、匂い、触感を私たちは日常、あまり意識して生活していない。しかし、これらの感覚は無意識の部分で脳に強烈な信号を流し続けている。だから私は紙の本が好きだ。
  本のデジタル化が今後益々進むことは重々承知しているが、どうも私は手を出す気にはなれない。この「どうも」と「気になれない」が感覚の信号が出した反応だと思っている。そして、それらの感覚を、強烈に意識した作品に出会った。
  先日、泉鏡花作『高野聖』をメトロ書店で購入した。その晩から寝る前の至福の読書タイムが、身もだえする苦悩と恍惚の時間へと変化した。この作品は今年坂東玉三郎の歌舞伎舞台にもなっている、泉鏡花の代表作である。幸運なことに、読みはじめから、私の感覚が情景描写にシンクロした。山中を流れる川の清水は、本来肌を切るような冷たさのはずであるが、そこに主人公の聖と女が現れると湯気立ち、艶めかしく女の肌にまとわりつき、そして女の恐ろしき想いと共に聖を包み込む。ぞくぞくした。なんて高貴なエロティックさ。なんて匂いたつ美しい女。手にしている無機質な紙の中の活字が、こちら側をその物語の中の空気へ取り込んでいく。私はその得も言われぬ、艶めかしい空気にすっかり取り込まれた。あまりの甘美さゆえ、勿体なくてページをめくる手が止まる。そこでまた情景が残像となって心が揺れる。本を閉じて眠るにはいささか刺激が強すぎた。しかし、これは何とも変え難いひと時である。結局私は、数日に分けてこの作品を味わいつくしたのであるが、この経験は容易に人には言うことの出来ない、なにやら秘めごとのようなものとして、心の触覚にしまわれた。
  本は決して「ただの紙」ではない。様々なものがどんなにデジタル化しようとも、紙の本は死滅しないと確信したくなる。
  今夜はどんな空気に触れることが出来るだろうか……。
高野聖
『高野聖』
泉鏡花
集英社
\390



 
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