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2011.6/5発行 No.204  
特集 版元さんリレーエッセイ ぶくぶくコラム ステンドグラス

特集
想ひ出話と恋の詩

  「想ひ出話と恋の詩」

  高校3年生の頃の話である。
  当時、バリバリの文系もやし男子だった私は、ひょんなことから茶髪ロン毛のヤンキーと仲良くなった。と言っても、すでにお互い全く異なる交友関係を築いていたので、常に行動を共にしていたわけではなく、せいぜい放課後の数十分間、だらだらと教室でしゃべっていた程度の仲である。その時の会話の内容も、「どうすればモテるのか」とか「カレーパンとカレーライス、どっちが最強か」とか、9割以上がどうでも良いようなくらだない話ばかりだった。
  あるとき、いつも通り放課後の教室でだらだらとしゃべっていると、その友人が急に物憂げな顔をして、こんなことを言い出した。
「どうして人は、恋をすると詩人になるんだ?」
  その友人の口から「詩人」という単語が出てくるとは思いもしなかったので、私はつい大声で笑ってしまったのだが(即座に気合の入った頭突きを食らった)、よくよく話を聞いてみると、どうやら尊敬する先輩が、敵対する不良グループのリーダーの恋人に横恋慕してしまったそうだ。で、憧れだったその先輩が、すっかり『恋する詩人』と化してしまったらしい。自分としては何とか力になってやりたいが、詩なんて良く分からないし、一体どうすりゃ良いのか、というのが友人の悩みだった。
  その悩む様子があまりにも面白かったので、私はふざけて「うむ、恋とは総じてそういうものだ。私にも経験がある。君も試しに一度書いてみたらどうかね」とアドバイスしてみた。
  これが間違いだった。友人は顔を輝かせ、「オマエ書いたことあんのか!じゃあ、お手本を見せてくれよ」と言い出したのである。正直、詩なんて全く興味がなく、詩人といえば相田みつをぐらいしか知らなかった私は、大いに狼狽した。全力で断ろうとしたのだが、断る間もなく「完成したら先輩に見せてやってくれ。きっと参考になるはずだ。約束だぜ」と言われてしまった。ヤンキーはとかく約束を重んじる。破ったらただでは済まない。さらにその先輩なる人物、腕っ節が強いことで有名だった。退路は絶たれた。私はしぶしぶ、詩を書くことを了承した。
  以上のようなことが切っ掛けで、私は詩を書く必要性に迫られた。しかし、単純に書くと言っても、どこから手を付けていいのか分からない。
  そこでまずは、偉大なる先達にお力添えを願おうと思い、古今東西様々な詩集を手当たり次第読んでみることにした。
  最初に手にしたのは、谷川俊太郎の『二十億光年の孤独』(サンリオ、1631円)だったと思う。
  詩というと、どうしても敷居が高いというか、難しいイメージがあったのだが、谷川さんの詩は平易な言葉で分かりやすく、しかも詩なんて殆ど読んだことがない私ですら「新しさ」を感じられるものであった。詩とはこんなに素晴らしいものだったかと感動した私は、次第にその奥深さに興味を惹かれるようになっていった。
  それから、石川啄木や島崎藤村、高村光太郎、中原中也、萩原朔太郎など、国内の有名なものを読み耽けった。やがて海外の詩も読んでみようと思い、はじめに読んだのが高橋健二訳の『ゲーテ詩集』(新潮社、460円)だ。
    ゲーテというと、ドイツを代表する大文豪・大哲学者で、ものすごくお堅い厳格な人、という印象が強かったのだが、この詩集には恋愛に関するものが多く掲載されており、そのどれもが強く共感できるものばかりだった。どうやら彼も、現代の我々と同じように恋に歓喜し、苦悩していたようで、読み終わった頃には彼を非常に身近に感じ、親友になったような気すらした。特に「すみれ(Das Veilchen)」という詩は、恋のせつなさや愚かさを見事に表現した傑作で、フラレた時に読むと号泣&嗚咽が止まらなくなること必至である。
  その他、シェイクスピアやワーズワース、ポー、リルケ、バイロンなどの作品も当時良く読んでいた。
  もちろん、それらの詩を全て理解できていたわけではない。何となく雰囲気で読んでいたものが殆どだっただろう。それでも、当時読んでいた詩は、どれも今の自分を形成する血肉となっている。
  書店業界で働くようになってから、詩というものがあまり日の目を見ない(有体に言えば、売れない)ジャンルであることを改めて実感するようになった。確かに、詩は小説や新書などと比べると、取っ付きにくく、難解かもしれない。しかし、言葉の持つリズムや語感、ダイナミックな発想の飛躍などは、詩でしか味わえないものだと思う。それに、小説や新書以上に、自由に読めるのが詩の良いところだ。詩には、他の文学にはない『懐の深さ』がある。より多くの人に、もっと気軽に詩を楽しんでもらえればと思う。
  ちなみに、友人から依頼された詩はどうにか完成したものの、その詩をお披露目する前に先輩の恋が終わってしまったため、誰の目にも晒されることなくお蔵入りとなった。やがて就職活動や受験勉強が本格化し、その友人と話す機会も自然となくなっていき、卒業後はすっかり疎遠になってしまった。
  先日、風の便りでその友人が結婚したという噂を聞いた。すでに子どももいるらしい。どんな人生を送ってきたのかは知る由もないが、話に聞いた限りでは息災のようで何よりである。
  彼女のために書いた詩は、渡せなかったまま、今も机の引き出しの奥に仕舞ってある。
(書店スタッフ・匿名希望)

二十億光年の孤独
ゲーテ詩集
『二十億光年の孤独』
『ゲーテ詩集』
谷川俊太郎、サンリオ
ゲーテ、新潮社
\1,631
 
\460




 
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