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2010.12/5発行 No.198  
特集 版元さんリレーエッセイ ぶくぶくコラムステンドグラス

ぶくぶくコラム
『 長崎県 長崎県西彼杵郡  トムヤン君様 』
   初めての出会いに強く心惹かれ、その後会えなくなってしまった人に思いがけなく再会。そんな気持ちでドキドキしながらこの本を手に取った。『漂流するトルコ』(旅行人、小島 剛一、 2100円)
その副題が示す通り、『トルコのもう一つの顔』(中央公論社、小島 剛一、777円)の続編である。前著が出たのは1991年。約20年ぶりの再会だ。
  ヒッチハイクで訪れた貧乏旅行の若者にどこまでも親切なトルコの人たち。トルコに惚れ込んで、何度も通ううちに、トルコ国家には隠された「もう一つの顔」があることがわかってくる…。
  トルコは建国以来、トルコ人はすべてトルコ民族であり、国内にはトルコ語以外の言語は存在しない、と公式に表明してきた。これらは事実無根であり、トルコは多民族・多言語国家である。しかしそれを口に出そうものなら逮捕・投獄されるのだ。トルコ民族以外の少数民族は、その存在を否定され不当な弾圧に苦しめられている。その少数民族の言語を研究するための、若き言語学者のスリルに満ちた探究の旅。ついにトルコ政府から「自主的に」国外退去をさせられるところで、前著は終わる。
  これを読んだときには、その内容の余りの素晴らしさに圧倒された。学問をするとは、誠実に生きるとはこういうことだ、と教えられた気がした。もちろん、読み物としても抜群に面白い。
  続編は、まず前著の最後で退去させられてギリシャへ入国するところから始まる。前著を書くに至った経緯や、トルコから逃げてきた少数民族の青年の亡命申請の手伝い等のエピソードがつづられる。やがてトルコの少数民族政策に変化の兆しが見られるようになり、トルコ政府の要請で「トルコと諸外国の言語観の違いおよびクルド諸語に関する報告書」を書くのだが…。自分たちの言語を研究してくれると知って涙を流す少数民族の老人、無知で傲慢、偏見に凝り固まった政府の高官。今回は歯に衣着せぬという趣もあり、読み物としての面白さは前著以上だが、前著と同様に、しかし今回は更に重く「国外追放」される場面で終わってしまう。最後の、護送の警察官たちとの心の交流もまた、白眉の名場面である。
  全編を通じて、筆者の並々ならぬ学問的実力、国家権力を相手に一歩も引かぬ度胸のよさ、そして人間的魅力が伝わってくる。トルコの全国各地で名もなき人々と膝突き合わせて語り合い、交歓し、そして信頼と友情を育んでいく。これだけ多くの友人を持つことができるのは、筆者の人柄によるのだろう。人々とのふれあいの場面が、実に実にいい。
  20年に1度の名著、という呼び方があるならば、この2冊こそが、まさにそうだ。私にとって『漂流するトルコ』は、文句なく今年No1の本である。


 

 
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