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2009.4/5発行 No.178  
特集 版元さんリレーエッセイ ぶくぶくコラム

ぶくぶくコラム
「神戸市 Y 様」
『日本でのハードボイルド』

 たしかに「日本」でのハード・ボイルドには辛いものがある。まず「武器」の問題があるでしょう。 如何に「高貴な魂」と「抜群の武術」を持っていたとしても、「無手」で3メートルの間合いをとられて「45口径」を持った相手と対するのは苦しいどころか自殺行為である。軽いお喋りとケリー・グランド張りの微笑が売り物のR・B・パーカーの名無しのスペンサーでさえ、夕暮れの歩道橋の傍で妙な動きをした男を実に簡単に撃っている。

  この辺りの事情もあって日本のプライベート・アイの活動は描きにくい、どうしても警察の小説に逃げざるを得ない。警察小説ではちょっとちがうんだな。ヒーローに据える刑事にしたって、ひとひねり必要だし。ハードボイルドのヒーローは金も権力にも縁がなく、ともすれば殴られ、倍にして殴り返すのだが衆寡敵せずKOされて、気がつけばオフィスの前に放り出されている。訳も分らず耳にした名前の人の間を歩き回っているうちになんとなく犯人が勝手に銃を手にして自分の前にあらわれる。隙をみてデスクの一番上の引出しに入れてあった短銃身の38口径でこれを倒して自分でも如何なっているのか判らぬままに一件落着、なんてのが普通である。 だが、日本では最後の部分が簡単に行かぬ。

 ところが、時代劇にすれば単純にことが済む。善悪どちらでも刀を腰にさしているのである。そしてヒーローは「ナントカ流の達人」にしておけば宜しい。これに気がついたのは意外にも藤沢周平であった。「よろづや平四郎活人剣」などは完全に「卑しき街」に住む「高貴な騎士」であった。
 旗本の庶子神名平四郎は三人の友人と町道場を開くことになり、嫂をだまくらかしていくばくかの資金を手に屋敷をでる。ところが友人の一人に金を持ち逃げされ陋巷に転がり込むことになる。実行力もあり、剣も立ち、話術も如才ない平四郎は軒先に「よろづ相談うけたまはり」の看板を出してなんとか糊口を凌いで行くことになる。この「騎士」は「プライス・リスト」なども用意してあってたとえば「失せもの探し」二百文などである。

 藤沢はかなりのアメリカのハード・ボイルドを意識していて、彫り師伊之助を主役にした「影帆」シリーズ等は自分でもそう云っている。「用心棒日月抄」シリーズも「お家騒動」が柱に通ってはいるが、青江又四郎の江戸での生活は完全に冴えない浪人のプライベート・アイの暮らしであった、と云えよう。
 ところが、現在のこの分野の主人公は大概「町方同心」である。ハード・ボイルドと警察小説が同時に楽しめて、お得でしょう。という感じである。
 これではズルイ。ヒーローは権力に寄りかからず、陋巷にある浪人でなければ、と頑張って数えるともう一人は矢張り佐伯泰英になるのではないか。

 この二人以後の作家は浪人にキチンと生活手段を与えている。それまでの浪人は、吉川英治の宮本武蔵にしろ、山手樹一郎の浪人にしろ、何を生活手段にしていたのかサッパリ解らない。とくに「お通さん」にいたっては、映画で見た限りでは奇麗な着物を着て手ぶらで日本中を武蔵を追って歩くのは、そりゃ無茶やがな、と子供の私でも思ったもの。(山手樹一郎の場合はお殿様の息子という設定が多く、そう言ってやればお方様が五十両下さる、というケースが多かった。)
 それを思えば佐伯の、金杉清三郎は解体屋の帆付け、坂崎盤音は鰻割き、赤目小藤次は刃物砥ぎ、神守幹次郎は吉原番所の用心棒、とそれぞれ正業を与えているのは正解というべきか。(しかしながら前二者はだんだん権力に擦り寄ってきているのだが)。
 私のクライテリアから外れるので挙げなかったが、佐藤雅美、山本一力、上田衆人、森山茂里、等の作品は充分に読むに耐える。

 
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