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メトロニュースバックナンバー2008
2008.11/5発行 No.173  
特集 文具さんリレーエッセイ 編集後記

版元さんリレーエッセイ
「さくらクレパス H様」
  2008年の夏、私が熱中したモノは北京オリンピックでもWii Fitでもなく、「ヌカドコ」。齢34歳、まさか自分に糠床を手入れする日々が来るなんて思いもしませんでしたが、実にハマりました。
  大好きな宮本輝さん著『にぎやかな天地上・下』(中央公論新社、各1680円)を読んだ影響なのです。発酵食品をテーマにした豪華本を作る32歳の主人公が、日本の代表的な発酵食品である糠漬け、醤油、味噌、熟鮓(なれずし)、鰹節、酢などを取材しながら、仕事や家族、人生に対する想いや基盤を固めていくストーリーのステキなこと!
  そして、私がこの小説に異常な共鳴をしたのが、主人公の行動場所。主人公の一人暮らしの場所が、仲良しの後輩の住んでいる京都「松ヶ崎」。主人公の実家は、営業担当店がある兵庫「苦楽園」。取材に行く醤油メーカーは、15年来海水浴に通っている和歌山の「湯浅」。さんまの熟鮓の取材は今年潜りに行った和歌山「新宮」…。もう、縁がある土地ばかりで、文章に出てくる土地がすぐ頭に浮かび、街角を曲がった時の香りまでが行間から漂ってきそうでした。
  発酵食品に必要なものは、時を「待つ」という事。醤油を例に取り上げると、大豆を蒸し、麹を塗し、発酵させ、手入れしながら「待つ」こと約1年以上。そして、自然の力で滴らせた生醤油を火入れし、安定させる…。大量生産の即興では成し得ない「待つ」ことによって、醸し出される命の波動…。
  糠も同じです。私はたまたま30年以上大切にされた糠味噌を少し分けて頂いて、自分の床を作っていますが、気温、湿度、混ぜ方、漬ける野菜によっても状態が変わります。
  本当に生き物です。
  糠床を手入れし始めて、約3ヶ月。仕事で疲れた日も、お洒落して出かける前も、酔っ払っている時も、自分の食事を作るのが面倒な日さえも、糠は混ぜないと痛むので手入れします。糠1rに存在する何億という乳酸菌にマニキュアはよくないと聞き、マニキュアも止めました。
  そうする内に不思議な感情が生まれ始めました。何にもやる気がない日でも、糠を混ぜると「まぁ食事の支度でもするか…」「はぁ、仕事も頑張って行くか…」と静かに生きる力が湧いてくる…。本当に不思議な力です。糠漬けは好きだけど、糠床の世話は面倒…と思っていましたが、お世話することで反対に自分が力を貰っている…。人のため、何かのために自分が愛情を注ぐのは、面倒な事でも損な事でもなく、結局は自分に愛情を注ぐことに繋がっていく。自分が表現・行動することが自分になっていく…。
  私はあと何年この糠と共に生きられるのだろうか…ずっと一緒にいたいなぁ…と思うようになりました。毎日、糠の中に生きているのであろう天文学的な数字の菌たちに空気を送り込み、私は何を「待つ」んだろう…。
  でもそれは現代人的な考え方で、本当は毎日愛しく手入れすることで、愛しい生活を重ね、愛しい人生を送っていくのであろう…。いや、私は愛しい人生を送りたいのだ。そうする為には、愛しい毎日を重ねていくしかないのだ。そう気付かせてくれた宮本輝さんの名著と糠床なのでした。

【H様プロフィール】
 【出身】大阪市
 【趣味】シュノーケル、旅行、料理
 【特技】水泳
  海、温泉、プール、お酒…水が異常にスキです。

 
『にぎやかな天地(上・下)』
(中央公論新社、宮本輝、各巻1680円)

 船木聖司は、謎めいた老人・松葉伊志郎の依頼により、豪華限定本の編集・製作を手がけている。今回の依頼は「日本の発酵食品を後世に残すための本」。糠漬、熟鮓、醤油、鰹節…。日本各地を取材する聖司は、微生物の偉大な営みに魅せられていく。
 32年前と7年前の、ある「死」が青年編集者・船木に今、にぎやかな“時間”を運んでくる…。宮本輝、2年ぶりの最新長編小説。


 
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