講談社 S
 
 「『沈黙』の地にて」
沈黙
『沈黙』
(遠藤周作、新潮文庫、540円)
 今年の2月下旬曇天の下鈍色に弱い光を放つ海、五島灘を介しはるか澳門へと続く海を見ていた。長崎担当のI君が、是非案内をしたい所があるので行きましょうと誘ってくれた。故遠藤周作氏が『沈黙』の舞台“外海(そとめ)”で静かに語りかける場所「遠藤周作文学館」に来ていたのだった。浅学菲才の輩としては、遠藤周作氏の作品は狐狸庵先生のユーモア・エッセイを楽しむばかりであった。純文学者としての面も知ってはいたが、この文学館の展示で音楽・舞台・囲碁などと多芸多才な方だとは知らなかった。改めて遠藤文学を読まねばという衝動にかられた。恥ずかしながら『沈黙』は学生時代以来ついぞ手がでない作品であった。そのひとつの要因は宗教色が強い作品との先入観のため、拒否反応があったのだと思う。いずれにしても私にとっては遠い作品だった。
  物語は、切支丹禁制が厳しくしかも島原の乱が鎮圧されてから日も浅いころであった。とりわけ取り締まりの厳しいころ、遥か極東の地を目指したポルトガルの3人の若い司祭がいた。艱難辛苦の末ようやく日本上陸を果たし、日本人信徒との連絡がついたのもつかの間、捕らわれて過酷な拷問を受けついに棄教のやむなきにいたる。このように絶望的な内容なのであるが、読み手を一気に作品に集中させる著者の力に舌をまいてしまう。「沈黙」とは神の沈黙である。「なぜ神は沈黙を続けるのか」「弾圧・拷問という想像を絶するほどまでに過酷な状況に置かれた信徒に対し神はなぜ一言の言葉もないのか…。」という疑問がおこる。キリスト教、信仰の根源にせまるテーマである「祈りは神に届いているのか?」「そもそも神は存在するのか」というキリスト教徒にとっては恐ろしい問いなのである。このモチーフを織り込み読者を物語の深みに誘いこんでいくのである。恐ろしい問いに対する答えについては、お読みになっていない読者諸氏の読後のお楽しみということにしたい。
  拷問・背教・神の存在を問うというテーマであったため、どっしりとした重い読後感が残った。また一方では、文庫本1冊ながら充実した満ち足りた気分を味わうことが出来る珠玉の光を放つ作品と言えよう。昨今書店店頭でも過去の作品を発掘・提案をするコーナーが増えているが、ふとした訪問によりすばらしい本に出会うことが出来たと思う。この次の目標は『深い河』であることは言うまでもない。
 
S様プロフィール
 1977年講談社入社。書籍販売部・雑誌販売部・北海道販売促進部等を経て現在中・四国・九州販売促進部担当。趣味「野外料理」。家族構成は妻と1男1女。近年はまっていること“世界遺産めぐり”(日本の…)
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