「メトロニュース 5月号を読んで」
 
 「版元さんリレーエッセイ」の高橋書店ORさん、カズオ・イシグロの『女たちの遠い夏』(ちくま文庫、¥714)を最初に持ってくるなんて、この方はタダ者じゃないですね。

  私もかつてカズオ・イシグロに凝ったことがありました。この作品は日本で紹介された最初の作品です。もちろんデビュー作のはずです。その後『日の名残り』(土屋政雄訳、早川書房、¥756)などの注目作、ヒット作があり、一方で問題作や実験作もありますが、私は今でも『女たちの・・・』は著者の最高傑作だと思っています。しかも、この作品はもちろん英語で書かれ、翻訳されていますが、「日本文学」として極めて上質の作品だと思います。長崎の物語で、人物もすべて日本人。そして原爆からの市民の立ち直りを、男と女に分けて描き尽くしています。男のリアリティ女のリアリティがこれ程見事に描かれた作品を実は私は知りません。
  フィッツジェラルドの短編で村上春樹が翻訳した『氷の宮殿』(『マイ・ロスト・シティー』収録、中央公論新社、¥1050)又はアーウイン・ショウの『夏服を着た女たち』(常盤新平訳、講談社、¥560)も、男と女についてその内面を見事に突いていますが、『女たちの遠い夏』はそれらの評価の定まった作品より、私は高く評価します。しかし、この作品が活字になることは、皆無といっていい程なので自分の内にしまい込んでいました。たまに誰かに話しても「傑作だから、ぜひとも読んでみてくれ!!」とまでは、なかなか言えない本なのです。カズオ・イシグロを他人に説明するときは『日の名残り』からで、それ以外の作品は、相当な読み手でないとうかつにすすめられません。

  それにしても緒方さんは、お若い方のようですね。お若いからこそ、瑞々しい感受性でカズオ・イシグロを読まれているのでありましょう。『女たち・・』の著者が企んだ読ませどころをどのように理解されているのか、そこがお聞きしてみたいところです。
(副編集長より・お察しのとおり、緒方さんはお若くて、美人でいらっしゃいます。)

 
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