「高橋書店 OR様」
 

 長崎市出身で幼少期にイギリスに移住後、英国在住の長崎女性の回想を書いた『女たちの遠い夏』で作家デビューをしたカズオ・イシグロさんをご存知ですか?

最新作の『わたしを離さないで』はメトロ書店さんでもずっと平積みにされていたので、淡い色彩で描かれたカセットテープの装丁に覚えがある方もいらっしゃると思います。

彼は日本語が殆ど話せず、小説も原文は英語です。ですから、私はその最新作を翻訳で読みました。それはとても不思議な感じがする小説でした。小説の根底にあるはずの物語の世界観を決して語らないのです。とても手には負えないものを細やかに表現し行間を読まなくては簡単に片付けることの出来ない、静かに語られながらも危うい小説でした。

水が少しずつ集まり大きな川を作っていくように物語は進み、主人公はその濁流に深い諦念をもって流されていきます。ただ、彼女は抗いようもないものに流されながらも、愛する人達に小さな声ではっきりと呼びかけます。Don’t let me go、私を離さないで、と。

『私を離さないで』はその世界観に曖昧な期待を持って読まれるのが一番と思います。現代社会の考え方とは相容れない、少しSFの要素が入っていますが、抵抗感をもたれる方でも「ストン」、と飲み込んでしまえると思います。詳しい内容にはあえて触れませんでした。少しでも興味を感じられたのであれば、どうぞ手にとられてみてください。どうか幸福な読書となりますように。

本好きが高じて出版社に入り、ちょうど一年が経ちました。実用系の版元ということで小説の類からは縁遠いのですが、趣味としてせっせと小説を読む毎日です。毎月の食費を削ってでも書籍代を捻出してしまうのは、上記のような本に出会うためだと思っております。本を閉じたときに、「ああ、本が好きでよかった」と思わせてくれる本に出会えるのはなにものにも代えがたい喜びです。

 
OR様プロフィール
昭和58年生まれの今年は年女!好きなものは本と音楽とCM。今年は黒・白・ベージュしか着ない生活から抜け出そうと思います。
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