長崎市 MK様
 
「野の花の入院案内」 徳永進 講談社
「野の花診療所」は鳥取市にあるホスピスケアを専門にする診療所。ここを開設した医師の徳永進氏が、臨床現場での数多くの看取りの体験から、「死のすがた」を語ってくれたものがこの本である。一読して、徳永流の、死への対処法にすっかり引き込まれてしまった。自分が終末期になったとき、こんな医師に診てもらえたなら本望だろうな、と思うほど。

ここで氏が語っているさまざまな患者さんの死をとおしての、死に対する、あるいは患者さんに対する、その接し方というのはちょっと無類のものである。一言で言って、そこにはマニュアル的なものがない。実に柔軟な、一人一人の患者の有り様に応じた、絶妙なばかりの対応を、わたしたちは知らされることになる。

氏の語りは、控えめながらユーモアのにじんだものであり、さりげない言葉のはしばしにも繊細な心の動きが聞き取れる。文中何度か出てくる「(笑)」が、その語りの調子をよく表現しているだろう。

徳永氏のどこか飄々とした、それでいてしっかりと人の死の現実を見つめ、一人一人の患者さんとともに死を看取っていくその姿勢には、深い洞察をとおってきた果ての軽みといった趣きさえ、私には感じられる。語られているいくつもの死のエピソードは、みなその人なりの人生を物語っていて、それだけでも興味深いものとなっているが、なんといっても臨床の場からくみ取ってこられた氏の語りには、真実みがこもっていると言ってよい。帯書きにある「命と死を感じる言葉の塊」とは、まさに本書の核心を言い当てている。
日本におけるホスピスケアが始まってわずか二十年、このような実践がなされている一診療所が地方の地にあることは希望である。
 
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