マガジンハウス 営業部SH様
 
1977年2月、暦の上では冬とはいえ大気は暖かかった。場所は米国ロサンゼルス。
市郊外の閑静な住宅地のなかにある塀に囲まれた瀟洒な邸宅。
塀の外にそびえる一本の大きな樫の木にひとりの男が登っていた。
オレンジがかった夕刻の庭に樫の影は覆いかぶさるように長い。男は3メートルほど登り、枝につかまりながら邸宅の中の様子を窺う。肩から一眼レフカメラが吊るされている。しかしどう見ても獲物を狙うハンターというよりは、自分自身を路上のコンクリートに落下させないように、あるいはカメラを落とさないように、そのどちらともとれる臆病者の必死の形相だった。

一時間は経過していただろうか。一台の巡回パトカーが徐行しながら静かに近づいてきた。ドアが開き、ひとりのコップが降りてきた。ロス市警のポリスキャップは浅く斜にかぶられている。定番のレーバン風真っ黒いサングラスはコワモテを演出するに十分すぎる素材だ。腰のピストルに手をそえ、チューインガムを噛む。不良風警官とまではいかなくても、それに値する雰囲気はもっていた。
マフィアと癒着して賄賂をかすめ、最後には銃弾の雨を降らされる、そんなズル犬コップの末路が浮かぶ。あのよくある米国シネマ暗黒街の一シーン。そんな空想を振り払うかのように男の瞳に一瞬のまばたきがあった。冗談じゃない。そんな空想は洒落にならない。

「ヘイ、ホワラーユーデューインヒア? ナンタラカンタラ。☆$★♀*¢カンタービレ・・・」と男にまくしたてる。
男には「ジャスト サイトシーイング」なんて答える余裕はなかった。すごすごと地面に降り立った。生命に別状がなかったことが、男にとっては十分幸せなことだった。しかも手をかけた腰のピストルは映画でもドラマでもない十分に現実のアメリカのそれだった。

これって実は30年前、芸能週刊誌「週刊平凡」記者時代に実際にあった私の自身のお話です。
日本のある有名男性歌手が米国の有名女優と現地ロスで電撃挙式をするという情報が入り、スクープ狙いで急遽現地に取材に飛んだ時のワンシーンです。

邸宅は女優の自宅。ロス入りした歌手を日本の雑誌、テレビなど芸能マスコミが空港から追いかけ、ビバリーヒルズ近くの女優宅まで行き着いたのちの張り込み中の出来事だったのでした。芸能週刊誌(女性週刊誌とは違います)が消えてしまった今の時代ですが、こんな裏話が山のようにありました。
プライバシーの侵害云々や名誉毀損の裁判沙汰など、日常頻繁に起こる事例は多いのですが、ちょっと前の芸能界はその「宝庫」であり、縮図でした。でも雑誌がメチャ元気な時代でもあったのです。スレスレのところで踏ん張るその気概が時代を引っ張っていたのかもしれません。

いささか前置きが長くなってしまい恐縮ですが、「版元にこんな書店営業マンがひとりくらいてもいいかな」くらいの、ちょっとお遊び気分で自己紹介させていただきました。そしていまは、心ときめかせるミステリー新刊が、自社から早く登場しないかとを首を長くして待っている私です。
また2007年はメトロ書店さんへぜひ足をのばしたく思っております。こんなオジサンですが、話のお相手になってくだされば幸せです。
 
SH様プロフィール
1948年生、北海道知床出身。編集、広告営業、宣伝を経て、昨年8月におそらく最後の職場・書店営業へ(憧れの九州担当)。 定年まで残り3年。禁煙1年経過。同時スタートのスポーツジム通いも継続中で、中性脂肪と闘いながらセールス営業のためのタフな体力作りの真っ最中。
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