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2006年7月6日号・第146号 news@metrobooks.co.jp(←投稿はこちらへ)

「NY(ニューヨーク)の書店見てある記@」
編集長 鈴木綾子
さる6月15日(木)、講談社・書店未来研究会(通称・未来研)主催の「ニューヨーク書店研修ツアー」に参加してきた。弊社からの参加者は社長の川崎孝、統括店長の本田多紀子、そして編集長の私、鈴木綾子。全国13社の書店さんや講談社スタッフの方も合わせて総勢18名で5泊7日、ニューヨークの書店を見学し、書店事情をうかがってきた。

思い起こせば数年前、晶文社から発売された「ブックストア」(リン・ティルマン、¥2625)というニューヨークのとある独立系書店の話を読んで魅了されて以来、いつかは絶対行きたい、と夢見ていたNY(ニューヨーク)。このたび講談社さんから研修のお誘いがあり、願ってもないチャンスと飛びついた。

12時間のフライトの後、たどりついたNYはまたもや夜。ゆっくり休んで、翌朝。ホテルの部屋のカーテンを開けると、高層ビルの合間から美しい青空が見える。絶好の町歩き日和!朝8時半にロビーに集合して、早速、現地の講談社アメリカのスタッフの方やコンサルタントのジル・ターディフさんらに案内されながら、徒歩で書店めぐりの開始だ。

私にとってはじめてのNYの気候は暑くもなく寒くもなくちょうど快適。街角のベーグルスタンドや信号機にまで「ドラマや映画で観たのと同じ!」といちいち喜ぶ。ミッドタウンにあるホテルを出て、セントラルパークの南西の角をなぞるようにして北上する。

最初の行き先はリンカーンセンターの「バーンズ・アンド・ノーブル」書店。全国に800のチェーン店を持つ大型ストアだ。コーヒー片手にソファでくつろぎながら本を読む、という新しい書店スタイルを確立し、十数年前には日本の書店人たちもこぞって模範とした書店だ。

店内を案内して下さったのはディーナさんという女性。地階のCD&DVD売り場から4Fのカフェ&雑誌売り場にいたるまでじっくり説明してくださった。見学者はさすが書店経営者や店長クラスの人ばかり。「新人研修の期間はどれぐらいか?」「万引き対策は?」など、次から次へと質問が飛び、2時間の見学会があっという間に過ぎていった。

面白かったのは「Meet the Writers」という部屋があったこと。100名ほどのお客様を収容できる部屋で、ちょっとした舞台と演卓がある。(椅子も舞台もしゃれていた)ここで作家のサイン会や新作の朗読会などが行われるそうだ。メトロ書店でもたびたびサイン会や座談会を開催しているので、こんな専用の部屋があるといいなぁとうらやましく思った。

アメリカの書店は日本と違って、委託制ではなく買切制なので、本の値引きができる。だから、売り場の一角にはバーゲン本のコーナーがあった。最大で30%程度の値引き。また、たとえば2冊買うと3冊目をプレゼントとか、3冊買うとビーチバッグプレゼント(いらないけど)とか、見た目はスーパーの日用雑貨コーナーと同じような感覚である。「あ、この作家Cのこの作品、やっぱこっちでも売れなかったのか、先に知ってたらあんなに仕入れなかったのになぁ」などという作品も数点見かけた。それにしても自分の作品の表紙にデカデカと「30%OFF」のシールを貼られた作家や編集者はどんな思いがするんだろう、とちょっと可哀想な気もする。

この支店のある界隈は高級マンションなどが立ち並ぶ地区で、児童書コーナーに来ている親子連れもどことなくセレブ。声をかけると、毎日のようにここへ来て、一緒に絵本を読んでいるとか。読書に対する意識も高いようだった。

さて、ランチの後は、2004年に出来たばかりのタイムワーナーセンタービルの2Fにある、これも大型チェーン書店の一つ「ボーダーズ」へ。赤とグレイの店内の配色が斬新な(それでいて嫌味のない)約200坪のワンフロアの書店。店長さんに案内して頂く。こちらの書店もメンバーズカード入会による割引制度やDM制度に力を入れている模様。話を伺っているうちに、あれ?変だ、頭がなんだか痛い。うちの社長も店長も他の数社の書店さんたちも皆、午前中のような意気込みが減少して、椅子コーナーで休んだりしている。おかしいな、と思ったら、何だ時差ボケだ。日本時間にして夜中の2時。
一旦ホテルで休憩してから、コンサルタントのジルさんからアメリカの書店事情のレクチャーを受ける。アメリカも日本と同じく活字離れが深刻な問題になっていて業界全体が不振であるとか。また、英語を母国語としないヒスパニック系民族が増加してきたことにより、スペイン語の書籍やスペイン語専門の書店も増えてきたそうで、こちらも国をあげての対策が必要だそうだ。

翌日は午前中に市内を観光したり、メトロポリタン美術館で迷子になったりした後、講談社アメリカスタッフの前田直子さんからNYの独立系書店事情を、オリジナルの地図や町歩きコースを交えながら教えて頂く。事前に拝読していた御著「ニューヨークの書店ガイド〜アメリカの書店事情最前線」(前田直子著、大久保徹也編、出版メディアパル、¥1260)は、NYの個性的な独立系書店がたくさん紹介されてあり、読んでいてとても興味深かったが、実際に前田さんご本人からお話を伺うとさらに面白かった。

最終日、我々メトロ3人組で早速、その独立系書店を見学に行ってみる。まず最初に行ったのはウェストビレッジにある「スリー・ライヴス・アンド・カンパニー」書店。大通りを1ブロック入ったところにある閑静な住宅街の中の小さな本屋さんだ。真っ赤に塗られた木のドアをあけると、思わず「わぁ」と声をあげたくなるようなかわいらしい店内が見渡せる。飴色につやつやと輝く木製の背の低い棚が並び、ほとんどの本が面陳してある(*表紙を見せて陳列すること)。絵本も数点あったが、ほんとどが文芸書のようだ。NY関連書の棚や今人気の若手女流作家の棚などがある。

レジカウンターにいたエリザベスさんに「日本から来た書店員だ」と話しかけると、「あら、うちのオーナーのトビーは今まさに日本を旅行しているのよ。日本の本屋さんを見て回るんですって」と言って、日本から届いた絵葉書を数枚見せてくれた。店の奥の方では年配の女性店員がお客様の相談に親切に応じていた。エリザベスさんの可愛らしい笑顔に見送られて外へ。

お次は前々から行きたいと思っていたミステリー小説専門店「マーダー・インク・ブックストア」、アッパー・ウェストサイドまで足を伸ばす。以前から色々な雑誌でここの書店の名前は聞いていて、NYに行くなら絶対行くぞ、と決めていた。期待通りの本屋さん!玄関横のショーウィンドウには日本でまだ翻訳されていないドン・ウィンズロウの新作が飾られている(即ゲットする)。その脇に犬の人形と餌入れが飾ってあるのだが、なんとその餌入れの中身が弾丸!(恐らく本書と何らかの関係があるのだろう)その背後の壁には聖書の一説が飾られていたが、残念、時間がなくて解読できず。きっとブラックユーモアのきいた警句だったのだろう。こちらも10坪程度の店内だが、天井から床までしつらえた書棚にミステリー小説がぎっしりつまっている。思わず、かけよってラインナップをチェックしていると「!?」何かが私の足を舐めている。ぎょっとして足元を見ると「バ、バスカビル家の犬」!大きな怪犬が尻尾を振ってこちらを見上げている。この店のマスコットワンちゃんのようだ。一日中居たかったけど、フェアウェルパーティの時間が迫っていたので後ろ髪ひかれる思いで退出。

NYの独立系書店を見ていると、今の日本の書店では薄れつつある純粋な本への情熱やロマンスをひしひしと感じることができた。

今回、紙面の都合でざっとしたご紹介だっただが、来月号以降でより詳しく連載したいと思う。