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版元さんリレーエッセイ
ステンドグラス
 
新潮社営業部 S・K様

感性というものがあるとしたら、私のそれは、歳とともに急速に衰えている。最近は、「泣ける」だの「笑える」だのと勧められて読んだ小説が、どこが泣けるのか、どこで笑えるのか、さっぱり理解できない自分の鈍さに愕然とすることが増えた。

そもそも、本でも音楽でも何でもいいが、ある作品に対して寛容にかつ鋭敏に反応できるのは、成長期・若さの特権ではなかろうか。許容量が多いというのか、ゴミのような小説でもカスのような曲でも、次から次へと吸収する余地が腐るほどある。あの時期の私自身振り返ってみても、そこら辺にある本にズンと叩きのめされて「世界が変わる感じ」が味わえたのは、二十代前半までだった。

あの頃はフーコーでさえ、ズンときた。だから、四十代も半ばに差しかかろうとする私が、「こんなもんで泣くやつがいるのか」とか「仲間外れにされるのが嫌で嘘ついているんじゃないの?」とか言って毒づく時、それは、今どきの小説はゴミだとかカスだとか、作品を批評しているのでは決してなく、感性の余白が減ってしまったなあ、と悲しみを通り越して自分に対する怒りに囚われている時なのである。決して「昔の小説のほうがマシだった」などと懐古趣味に陥っているわけではないし、決して「ゴミを大量生産する出版社の責任を問う」などと社会正義に燃えているわけでもないのである。

まあ、本というものは、研究者でもない限り、読み手次第でゴミにも宝モノにもなるのであるから、本が山のように刊行されるのは人類にとって有益なことなのだろう。私も、加齢による感性の衰えを防ぐべく、本の山を漁っていると、たまには「穂村弘(愛称・ほむほむ)」のような、久方ぶりの「私の宝モノ」を見つけることができる(既に、ほむほむは“皆の宝モノ”になってはいますが)。ほむほむ、あなたのおかげで、また何年か生き延びられました。ありがとうございます。


S・W様プロフィール
1963年、東京は葛飾区柴又生まれ(あの“寅さん”の町です)。この四月より、九州・沖縄地区担当となりました。歌って踊れる営業マンを目指す、潜って(ダイビング)滑れる(スノーボード)中年男です。


*編集部より:S・W様ありがとうございました。来月は初!M社K様の予定です。お楽しみに!

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