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ブクブクコラム ステンドグラス

新潮社 宣伝部  部長 S・F様

 10年前、20年前の「ゼッタイおもしろい本」がロング・セラーとして存続できにくいのはなぜだろう?とりわけ、海外のエンター・テイメントが顕著のような気がする。その典型を三つ挙げろと言われれば、
 迷うことなく「シャドー81」「摩天楼の身代金」「大聖堂」を選ぶ。
 ライヴァル出版社の稀代のすれっからし読み手に、一年ほど前、ケン・フォレットの「大聖堂」を強く薦めた。その読み手とは、それなりの信頼関係があって、たまたま私の言葉に説得力があったらしく、
 彼は即刻近隣の書店に走った。私がどのような言葉を弄したか?他人に本を薦めるのは、本当に難しいことで、とりわけ、相手が業界で名の通った読書家だとそれなりの覚悟をしなければならない。私は、「針の目」よりゼッタイおもしろい、と薦めたのである。
 
 一時間もしないで返信メールが届いたが、その内容に愕然とした。
《新潮文庫の棚で探したけれど見つからないからレファレンス係に検索してもらったら「大聖堂上・中・下は絶版です」だって!ウーム・・・》
 
 最後の「ウーム」には私もビビってしまった。相手の呆れ顔が目に浮かんでしまったのである。ま、常日頃、絶版なんてことはよくあることで、そんなことは些かも動じないけれど、それが自社の文庫であったことと、海外エンタメの白眉と位置づけていたこと、そして「シャドー81」や「摩天楼の身代金」と違って時代遅れにならない内容であると確信していただけに、恥をかいたというキモチになったわけだ。
 
 それから一ヶ月もしないうちに、今度は業界外の友人から《お前んとこの文庫で「大聖堂」はメッチャおもしろいナ》の着信あり。《どこの書店で見つけた?》と返信したら《家の近くのbook o△△で....》うーむむむ。いやはや。
 
 新潮文庫編集部へ走って復刊の交渉をしたところ、すでに版権は返上とのこと。それでもいいから版権再取得を迫ったら、返ってきた返事が振るっていた。
 
 実は、「今年の('05年)秋にソフトバンクから出版されるらしい、とのことであった。
 すれっからし氏には、秋まで待つか、ユーズド・ブックを入手するかを示唆した。私は今年喪中だったので年賀状の交換はなかったけれど、彼氏からは《寒中お見舞い申し上げます。今年は年頭から上・中・下三冊の長尺モノにハマッています。残りがすくなってきて、ページを繰るのが惜しくてなりません。》の挨拶があった。
 読書ライヴァルなんているのかいないのか知らないけれど、好敵手にこう言わしめた私の悦びは、これまた格別のものであった。

プロフィール
ゴルフ下手・田舎暮らしが夢
モットー「捨て身」
出版界最後の年にミリオンセラー「国家の品格」の仕掛けができて何より嬉しい。
愛車はおんぼろポルシェ

 

*S・F様ありがとうございました。ライヴァルは元S社のKさんだとか。いつかご登場願いたいと思います。 来月はF社I様の予定です。お楽しみに!

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