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2005年3月5日号・第129号 news@metrobooks.co.jp(←投稿はこちらへ)

高齢者介護が当たり前の時代にふと思うこと
編集長:鈴木綾子
 
 ちょうど10年ほど前のこと、門野晴子さんがお書きになった「老人介護」に関する本を本紙で紹介したことがある。どんなにきつくても介護は耐えねばならぬもの、何かを犠牲にしなくてはならないもの、といったそれまでの世間の風潮とは異なり、介護に対する行政のありようを鋭く批判したり、「シンドイときには、シンドイと言っていいさ」といった姿勢は、多くの読者の共感を得、以来、氏の本は刊行されるたびにベストセラーになっていった。
 
 あれから10年後、私は現在祖母の介護をしている。祖母は歩行や飲食・排泄など不自由な部分はあるものの、完全な寝たきりではないし、頭も口もわりとはっきりしている。幸い我が家には家族が大勢いるし、また一日おきにヘルパーさんや訪問看護士さんが来て適切な処置をして下さる。こうして仕事を続けていられることを考えてみても、10年前に門野さんが奮闘されていた頃と比べると隔世の感があろうと思う。
 
 しかし、そうやって祖母の世話をしながらも、時々納得のいかないことがある。もっと重い病気の家族を抱えていらっしゃる方から見れば、ほんの些細なことかも知れないが、とても気になることがあるのだ。
 
 私たち家族は、祖母が自宅で快適に、祖母らしく暮らしていくことを望んで、自宅療養という道を選んだ。そのため、いくつか部屋をリフォームしたり、介護用品を購入したりした。だが、その介護用品について気になることがある。
 まず洋服であるが、寝たきりを防ぐために昼間の数時間はパジャマから着替えようということで、普段着を購入しようとした。ところが、ちょうど良い洋服がないのだ。腕が不自由なので、上着は前開きのものを、下まで全開になるものでなければ着脱させにくい。襟元が詰まっていては苦しいし、開きすぎていては寒い。袖口は血圧を測ったり、採血したりするときのためにスムーズに上げ下げできるものが良い。ズボンはウエストがゆるやかで、裾を踏んだりしないように丈は短め。排泄のときも不自由しないようにできればベルト部分はゴム。いずれも素材は綿や絹、ウールなどの自然素材で、多少ストレッチが入っている方が良い。
 
 そう思って、デパートや近所の商店街を探しに行ってもちょうど良い服がない。あっても、黒や茶色、灰色、暗緑色といった暗い色の服ばかりである。シニア向けの洋服ブランドの色の暗いこと、寂しいこと。これじゃ、高齢者が夜道で交通事故に遭うのも多いはずだと妙に納得してしまうほどである。
 
 元来、祖母は着物を着たり、ワンピースを仕立てたり、といったお洒落さんであった。(高齢の女性のほとんどがそうだと思うが、ジャージなんかよほどでない限り着ないと思う。)おそらくこんな暗い色の服を買っても着ないだろうなぁと思いながらも、やむを得ず買って帰ったところ、やはり「着たくない」との返事が。ただでさえ、気が暗くなりがちな療養生活がこんな「死」を連想させるような色を着せるわけはいかない。
 
 また、おまけに、まだ世間は寒いのに、ブティックではすでに春物の洋服ばかりで、今、必要な服がない。若者向けの服はまだ良いとしても、せめてシニア向けの服は現在の季節に合った商品を多少なりとも残しておいてくれれば良いのに、と思った。
 
 仕方がないので、インターネットで洋服を探してみた。介護しやすく、着心地も良く、心が明るくなるような色合いの服・・・が、ない。どれもくすんだベージュやグレーの受刑者みたいな服で、確かに介護しやすくはできているが、着る本人のプライドを踏みにじるような見映えの悪い服ばかりである。こんなハンニバル博士(『羊たちの沈黙』)が着るような服なんか祖母は見たくもないだろうと思う。たまに、「あ、いいな」と思う服を見つけたと思ったら、それは介護される側の服ではなくて、介護する方の服、つまりヘルパーや看護士向けのユニフォームであったりして、そちらはなんともおしゃれで色合いも良い。
 
 洋服だけではない、食器についても同じだ。手元がおぼつかないから食器はできるだけ軽くて、機能性の高いものが良い。そう思ってやはりカタログを取り寄せたり、インターネットで探したりしたが、機能の面では良くても(たとえば、手が震えやすい人のためにコップの飲み口に角度がついているとか、箸の持つ部分に突起がついているとか)素材がプラスチックだったり、色使いが妙な組み合わせだったり。赤ちゃんの離乳食向けにはとても良い食器が出ているのに、高齢者のものとなるとどうしてこうも味気ないものになってしまうのだろう。こんな食器を考案した人はきっと料理をしたことのない人だろう、こんな食器で身内に食事を食べさせる人もきっと料理の下手な人だろうと、憤りを感じるほどであった。
 
 結局、何時間もかかってインターネットで探したた結果、なかなか良いサイトを見つけた。私と同じ考えの人が全国中にいるのか、「おしゃれな部屋着」は売り切れだったが、木製の非常に軽い、機能的なコップとおかゆ皿を購入した。
 
 今の時代、高齢者介護は珍しいことではない。介護する側もされる側も、快適に暮らしていくためのステップアップが必要な時代に入ったのではないだろうか。たとえば、何も介護専門ショップにいかなくても、一般のブティックや食器店で介護に役立つ商品が売っている。ちょっとしたコーナーがある、ちょっとしたPOPが立っている。それだけでもいいのではないか?
 
 うちのじいちゃんはボケてるから、うちのばあちゃんは自分で食べられないから、だからどんな服を着ても、どんな食器でもいい、ではあまりに寂しすぎると思う。

 介護のための良い本も出ている。
『頑張らなくてもできる介護』(山崎えり子、家の光協会、1365円) 
「節約生活のススメ」の著者が10年間の介護生活を経て得た介護生活を快適にする知恵。寝ている人の部屋を音やホコリを立てずに掃除する方法。ベッドから落としたものを楽に拾う方法など実際に役立つアイデアが満載。
 介護する方も、される方も楽になります。

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