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ブクブクコラム ステンドグラス
メトロ書店専務 川崎紀子 
「ノンフィクション作家
上坂冬子先生」
 
先日上京の機会があり、自由な時間があったので、かねてよりお目にかかりたかったN氏のオフィスにお邪魔した。その方は大手出版社を数年前に辞め、今は悠々自適の暮らしをなさっている。お辞めになる前には大変なご苦労をなさっていて細いお体がますます細くなられ、お会いするたびに心配になっていたのだが、久しぶりにお目にかかると、その頃よりもずっとずっと若く元気になられていた。リフレッシュして生まれ変わられたようにさえ感じた。
色々楽しいお話を聞かせていただきあっという間に時間が過ぎた時、一人の女性が入って来られた。お姉様の上坂冬子先生だった。とてもきさくに私に話しかけてくださり、目の前で「私の人生 私の昭和」(集英社刊)のご著書にサインをしていただいた。サイン会のために自分で本を買うことはあっても、作家の方から直々に本を頂戴したことなど初めてでとても感激した。
 
 上坂冬子先生は1959年「職場の群像」で第一回中央公論社思想の科学新人賞を受賞されたのち「東京ローズ」「生体解剖」「巣鴨プリズン13号鉄扉」「慶州ナザレ園」などずっとノンフィクション一筋に書いて来られた。頂戴した本にはその折々の苦労話や顛末(てんまつ)が書かれていて、そばでずっとお話をきいているような気がし、私は心の中で「すごい!」「へえー、そうだったのか」などと相槌を打っていた。事実であっても、小説の土台となってしまえばそれはもうノンフィクションではありえない。真実を求めて、確かな裏付けを取って世に出すまでには直感や行動力、粘り強い交渉力などが必要だ。先生のエネルギーとパワーには敬服してしまう。
ペンネームの「上坂冬子」の由来には驚いたが(本を読んでのお楽しみ)素顔の先生は冬子さんではなく夏子さんの方が似合う明るくさわやかなパワーあふれる方だった。
 本の最後に「文筆の仕事の区切りを自問自答すべき云々」とあったが、自問自答などせずにこれからも埋もれゆく昭和の歴史を掘り起こし、戦争がいかに普通の人々に癒しがたい傷を与えたかと警鐘をならし続けていただきたいと願っている。


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