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ブクブクコラム ステンドグラス
メトロ書店専務 川崎紀子 
「戦後六十年」
 
 ついこの間「戦後五十年」と言っていたような気がするのに、あっと言う間に十年が過ぎた。この十年の間に父も父の友人も伯父たちも、若者だった数年間を戦争に捧げた人たちが相次いで亡くなっている。
 彼らは皆大正生まれだ。たった十五年間だが一番多くの戦死者を出した年代である。生き残った父たちは戦死した友人たちのことを折りにふれて話していた。「おとうちゃんが死んでたら紀子はこの世に生まれてへん」とよく恩着せがましく言われたものだ。私たちの世代は、小さい頃から戦争を体験した大人たちから色々な話を聞いて育った世代である。軍隊で父の部下だった運送屋のおじさんは、家に遊びに来るたびに酔うと軍歌を歌って、恐ろしかった体験談を話していた。笑い話で済ませていたが、銃弾の飛び交う中を突撃していく一兵卒の恐怖は、いかばかりであっただろう。
 伯父は何度も中国戦線で戦った人だったが、亡くなる直前まで一言も戦争の話をしなかった。しかしある日、それまでずっと胸に秘めていた悲惨な光景を涙ながらに語った。戦火をくぐり抜けて生還した人びとの心の奥には、死んでいった人たちへの深い思いが何年経っても消えることはないのである。
 体験談を直に聞いた私たちは、戦争の愚かさ恐ろしさを多少なりとも肌で感じることが出来たが、若い世代の人たちにはどうやって伝えていけば良いのだろう。この先平和な時代を守り続けていくためには、戦争を体験した世代の人びとが生きている限り、自分の言葉で戦争の悲惨さ愚かさを語り続け、警鐘を鳴らし続けていって欲しい。また若い人たちも同じ世代の若者が死ななければならなかった戦争の悲劇を書物や残された映像で勉強して欲しいと願っている。


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