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今月の特集へ 版元さんリレーエッセイ
平凡社 N・Kさま

 平凡社の前は地図の昭文社に勤めていた。二十年前のあの頃、私はその埼玉営業所に勤務し、毎朝ライトバンに商品を積み込むと夜まで書店を廻っていた。棚に旅行ガイドを並べ、平台に売れ筋の地図を並べた。商品を棚に詰め終えたときの充実感が好きだった。そんなある日のこと、北関東のある書店さんでいつものように補充を終え、視線を店の中に向けたとき、ガツーンと体に電流が流れるのを感じた。棚にビッシリと埋め尽くされた本に私は完全に打ちのめされたのだった。「そこの君、こっちを見てくれよ!ぼくを手にとってみてくれよ!」と、本たちが必死に叫んでいた。世の中にはこんなに本がある!その時このことを気づいてない人たちに伝えなければならない、と確信したのだった。それは直感に近かった。
 
 3週間後、平凡社という会社を受けた。面接でひとりの役員が私に「君は昭文社で何をしているの?」と尋ね、私は「欠本補充です。本が売れたらすぐ補充するのです」と答え、彼らを喜ばせた。(そんなこと平凡社の本でしたら書店さんに怒られる!) あれから一五年、私に何ができただろう?キリなく出版され続ける新刊書の中で溺れそうになりながら仕事をしてきたけれど、私はまだわからない。「売れる本は売れるし、売れない本は売れない。その違いは一体何なのか」。
 
 ところで、わが家ではここ数年読書バトルをやっている。家族が2チームに分かれて読書量を競うのである。期間は1年。〔私+高校生の長男〕チームと〔妻+中学生の次男+小学生の三男〕チームだ。1年後の読書冊数の差一冊五百円でカウントされる。金がかかっているから真剣だ。2月末時点で〔私と長男〕チームが3冊勝っている。
 
 最近の収穫→荻原浩「明日の記憶」それに「電車男」、どっちもすごいと思った。それから姜尚中と森達也の対談本「戦争の世紀を超えて」には頭を叩かれた気がした。
 
 さて、平凡社で仕事をし、そして家族で読書競争をやりながらあらためて思うことは「本の世界は豊饒だ」ということだ。本は大容量のDVDレコーダーやPSPやi-Podなんかに負けはしない。本は湾岸戦争やイラク戦争のTV中継に圧勝している。そして本は書店にこそある。人々の希望も夢も癒しも欲も、祈りもそして知識とやらもすべてある。私は生活に疲れたただのオッサンであるけれど人々に本を届ける仕事をできる限り続けていきたい。

N・Kさまプロフィール
家族5人。住まいは小田急線沿線。東京の会社まで片道1時間50分、1週間でたっぷり12時間は電車の中。だから、趣味は読書。休みの日はi-podを持って町歩きか小4の三男のテニスの相手。最近中程度の沖縄病。




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