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このコーナーでは、お客様から寄せられた本に関するコラムをご紹介しています。
長崎市K・M様

長崎市 松田和夫様

「なぜ『ただの水』が売れるのか」(高田公理著、PHP研究所)

 あなたは一週間に何本の「ミネラルウォーター」を飲むだろうか。
 日本人が「ミネラルウォーター」を飲むようになったのは、一九六四年ごろからと言われる。一九八四年にその生産量は九万キロリットルであったのが、二〇〇一年にはなんと百万キロリットル、すなわちこの二十年たらずの間に実に一万倍以上に増加したと、本書の「はじめに」にある。
 
 自然物である「水」がお金で消費されるようになった事実、そこにわたしたちが生きている現在という時代を象徴する何かがある。その「何か」とは何か。本書によれば、それは「嗜好品」を「楽しむ」というところに生活の趣向が見出されるようになったということになる。衣食足りて、生活必需品の不足に困ることのなくなった現在の日本にあって、わたしたちの生活に浸透してきているもの、それがさまざまな「嗜好品」に対するこだわりといった現象である。
 
 そうした社会現象について研究すべく、筆者等が立ち上げたのが「嗜好品文化研究会」である。本書はこの「研究会」が平成十三年度に実践してきた活動の内容を筆者がテーマ立てて編集し、加筆した上で紹介したものである。ここには、さまざまな世代や職種のグループごとに企画された座談会の記録が掲載されているが、現在の日本時がいかに生活の中で「嗜好品」を嗜んでいる(?)かが知られ、興味が尽きない。そこではいわゆる「嗜好品」(コーヒー、酒、タバコなど)の概念を拡張して、音楽、香水、ケータイ、清涼飲料水、などといったものまで生活を楽しみ、快適を満たす手段として語られている。そこには、現在という時代の特質がうかがえると同時に、また生活することに対する新たな価値観の現れをも考えさせられたりもする。現在とは、それこそ生活の必要を「満たしていく」ところから、生活を「楽しむ」ところに「生活する」ことの意義がシフトしていっている時代なのだということである。
 
 この不況の世の中に?と言う向きもあるかも知れない。しかし、一般的に見て、今の日本に貧乏という言葉は死語となっていることは誰もが認めるところであろう。また、高度消費資本主義が情報化社会の趨勢と連動したかたちで、地球的な規模で蔓延化しつつある(グローバル化)というのも否定しがたい歴史的現在の事実なのではある。この二十一世紀初頭、これからの時代の様相を予測する上で、本書の目次の見出しにもある「『楽しむ』という価値の発見」というテーマは、一つの時代のキーワードとなっていくように私には思われる。それはちょうど江戸時代の文化が爛熟した時期に、例えばあの橘暁覧(たちばなのあけみ)が歌に詠んだ「楽しみは・・・」の連作和歌に見られるごとく、歴史の爛熟がもたらした生活観を私には連想させるものでもあるし、また、このたびの「嗜好品文化」なるものへの時代の傾斜は、一種、人類学的なテーマとなるべきものなのではないかと私は思うものでもある。
 
 そうした意味から本書は、今後の日本の、また、高度情報化・消費資本主義社会の行方を洞察する上で、きわめて示唆的な手がかりを与えてくれる内容となっている

 
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