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版元さんリレーエッセイへ 編集後記
文藝春秋 営業部 T・E様

 「富士には、月見草がよく似合う」(『富嶽百景』岩波文庫他)と書いたのは太宰治だが、僕は新幹線から富士山を見るたびに「富士には野立ち広告がよく似合う」と言い換えたりする。
 野立ち広告とは文字通り野に立つ看板広告のことだが、新幹線の車窓から眺めているとよく目につく(広告だから目立つところに立っているわけだが)。一瞬、目に止まる程度のものだから、社名や商品名をシンプルに書いただけのものが多い。小学校低学年の時、「ローズ羽毛ふとん」と書いてあるのを「ローズハゲふとん」と声に出して読んだら、親に「ハゲたふとんなんて売れないだろ」と叱られた。
 今、『富士山』(文藝春秋)という新刊本が出ている。写真集ではない。れっきとした小説だ。著者は田口ランディ。『コンセント』(幻冬舎文庫)などで話題になった作家だ。先日、着物姿で会社に来られ、サイン本を作っていただいた時、こんなことを話していた。
「今年の初夢で『富士山』が書店に並んでいる光景を見たんです。手にとってみたら帯に――そうだ、僕らには富士山がある。――と書いてあった」
 帯のコピーは田口さんの初夢を編集者が実現させたのだ。まさに正夢である。
 さて、その『富士山』は4つの短編から成るが、すべての作品が富士山をモチーフに描かれている。その中の一編『ジャミラ』はゴミ屋敷に住む妖怪のような老女の話だが、最後のシーンが印象的だった。
――くるりと踵を返すと、ジャミラは真っ赤に燃える富士山に向かって、ぴょこたんぴょこたんと去って行く。――
 絵になる光景だなあと思う。
 今度、富士山を見たら「富士には、ジャミラがよく似合う」と僕はつぶやく。
                 

★T・Eさま プロフィール
  年齢=29歳
趣味=野球観戦、音楽鑑賞、数字の暗記、残業、タヌキグッズの収集他多数

◎九州担当になってもうすぐ一年です。いろいろ教えてください。



*編集部より:T・E様ありがとう ございました。九州人の私は富士山は一年中白いものだと思っていました。
 次回は幻冬舎M様の予定です。お楽しみに。 


 

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