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版元さんリレーエッセイ ブクブクコラム
岩波書店 S・I様

 中島達男先生のこと

 私が小学生のときですから、もうずいぶん古い話ですが、2年間クラスを担任していただいた先生のことです。先生は常日頃、本を読むことの大切さを繰り返し話されました。生きていく上で、困難や疑問にぶつかったとき、どこで何を聞き何を調べるかという方法さえ身に付ければよく、そのための力は本を読むことで一人一人の中に作られるのだと話されました。
 当時の地方の町には、小さな本屋さんがあるだけで、教科書以外の本に出会う機会がほとんどなかったので、先生はよく学校の図書館に(当時は畳敷きでしたが)教室を移し、読み聞かせをしたり自由に読む時間を作ったりして、本に親しむ機会をできるだけ増やすような工夫をされていました。
 また休みの日にはご自宅を訪ね、先生の本棚から勝手に本を読んだり、将棋の相手をしていただいたり、畑の仕事を手伝ったりしたのをなつかしく思い出します。もっとも当時の先生が新婚早々だったとは、だいぶ後になってから知ることになるのですが。
 数年前、久しぶりのクラス会に出席していただいたとき、すぐに「俺」「お前」と騒ぎだすかつての教え子たちを先生はにこやかにご覧になっておりました。「晴耕雨読の毎日でしょうか」と伺うと「いや、なかなかそうもいかなくてね」と飄々と答えられた姿の良さが、とても好ましく感じられたものでした。
 あるとき先生は、授業の合間にこんなお話をされました。「人間の欲というものはきりがないものです。どうしても買いたいと思ったときは一晩だけ待ちなさい。次の日、それでもまだ買いたいと思うのなら、もう一晩だけ待ちなさい。そしてその次の日になると,大抵のものは欲しくなくなるものです。」
 私はといえば、先生の教えも何のその、衝動買いでも良いから一冊でも多くの本を買って頂けないものかと、日々心砕きながら過ごす不肖の弟子ではあります。

S・I様プロフィール

年齢はかなりですが、気は若い。妻と息子二人の四人家族。
のんびりやさんの大学生と、生意気盛りのサッカー中学生。


☆S・I様ありがとうございました。来月はS社Y様の予定です。メトロニュース各出版社御担当者からの原稿をお待ちしております。ご協力よろしくお願いいたします。

 

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