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版元さんリレーエッセイ

2003年6月5日号・第108号 news@metrobooks.co.jp(←投稿はこちらへ)

在宅で死ぬということ   本紙編集長・鈴木綾子
 
 祖父(故・メトロ書店会長)が体の不調を訴え始めたのは、2000年4月、アミュプラザ長崎のメトロ書店新本店がオープンする約半年前のことだった。90歳、風邪すら滅多にひくことのなかった元気な祖父だったが、どうやら胃ガンの可能性があると診断された。
 
 主治医のS内科医院の院長先生は当初、入院して手術をすることを薦められたが、それに対する祖父の答えはNOであった。その時祖父はこう答えたそうだ。「先生、あなたはまだお若いからわからないかも知れないが、私はもう十分に生きました。家族にも恵まれ、もう思い残すことはありません。よって検査もしない、手術もしない。自宅で家族と一緒に最期を迎えたい。だからそのような方針でよろしくお願いします。」
 
 6月、痛み止めのモルヒネを服用するようになると、祖父は出社するのをやめて、本格的に自宅で療養するようになった。仕事で忙しい私たちの代わりに、祖母がつきっきりで看病し、それに加えて昼間は訪問看護のヘルパーさん、夜間は母と私とで交代で世話をすることになった。その合間にもS先生はこまめに往診され、点滴の針を替えたり、薬の効き具合を祖父からじっくり聞いて下さった。
 
 8月末、メトロ書店新本店への搬入作業も始まった頃、祖父は91歳の誕生日を迎えたが、その頃から徐々に物が食べられなくなり、立ちあがることもできなくなった。「おじいちゃん、重たいなぁ」と冗談を言いながら、トイレまで運んでいたあの背中の重みを懐かしく感じるほどだった。その頃、祖父に死ぬのは怖くないかとそれとなく聞いたことがある。その時、祖父は「何言ってんだ、ちっとも怖かないよ。実際あっち(天国)の方が知合いは多いしね」
 
 9月18日、新本店オープン4日前、書棚に本が入ったところを全てビデオカメラに収めて見せると、祖父は横になったまま小さい声で「いい店が出来たなァ」と何度も嬉しそうにうなずいてくれた。この頃、祖父はもう随分具合が悪そうだった。一日に何度も往診して下さるS先生や看護婦さん、ヘルパーさんだけが心の支えだった。
 
 そして、メトロ書店本店オープンの9月21日夜。閉店時間を見守るかのように祖父は息を引き取った。自宅で、曾孫にいたるまで家族全員から手をつないでもらって。まさに本人が望んだ通りの最期。大往生であった。
 
 在宅で死ぬということ、これは単に自宅で死ぬということではない、この幸せな最期を迎えてもらうためには、介護者・医療施設・福祉サービスなどの連携プレーがなくてはなり立たない、という大きな問題を孕んでいる。
 
下に、今好評の在宅介護に関する本をご紹介したい。

『在宅で死ぬということ』(押川真喜子、文藝春秋、   ¥1238) 
 
聖路加国際病院の訪問看護科ナースマネジャーの押川真喜子さんが十五年間の訪問看護の経験の中で得た事例を紹介した本。自宅で療養し、最期を迎えた患者さんと家族の真の姿を描いている。
 死にゆく家族を見送るとき、どのように支えていけるのか、自分が最期を看取られるとき、どんな生き方あるいは死に方をしたいのか。この「本」が人生の終着点として前向きに考え、心の準備をするきっかけになれば幸いです。(著者)発売以来連続週間ベストセラー。 






「残り火のいのち 在宅介護11年の記録」(藤原瑠美、   集英社新書、¥700)

 残り少ない大切な命を、最期まで慈しんだ…。本書は、在宅で看取った、ある女性の11年に及ぶ感動の記録である。「介護者有業副介護者なし」という過酷な条件の中で、著者は福祉公社やボランティアの人たちの「社会の手」を借りて、仕事と介護を両立させ続けた。幼児に還っていく母は、本当にいとおしかった。母は生きる勇気と力をくれた。これは、介護という現実に直面している方々への、あたたかな励ましの書でもある。





「在宅介護をどう見直すか」(佐藤義夫、岩波ブックレット、 ¥480)

 介護保険の施行以来、さまざまな問題が顕在化している。特に大きな問題は需要が特養ホームなどの施設に集中し、在宅介護が後退していることである。介護の質を高め、実効あるものにするには在宅介護をどう見直したらよいか、自ら事業者として参加するにはどうするか。介護保険への提案を行う。

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