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版元さんリレーエッセイ ブクブクコラム

2003年1月5日号・第103号 news@metrobooks.co.jp(←原稿はこちらへ)

メトロ廃墟クラブの
恐怖の軍艦島ツアー
迫りくる恐怖に耐えながら、鈴木は「しまった…あの時、あんなこと言わなきゃよかった」と激しく後悔していた。
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 今をさること半年前、マガジンハウス御担当の宮下氏がご来店されたときのことである。メトロ書店本店実用書担当・M野が仕入の打ち合わせをしていたとき、ふとある本が目に留まった。『廃墟漂流』(小林伸一郎、マガジンハウス、¥3500)。「何ですか?この本」と尋ねるM野に、たまたまそばを通りかかった本紙編集長・鈴木が「やだ、知らないの?今、廃墟って流行ってんのよ。長崎なんかまだブームはないけど、メトロから流行を作り出さなきゃ。それが我々の使命よ!」と、半分知ったかぶり、半分いい加減なことをM野に言ってしまった。しかしその瞬間、M野の目がキラリと光り、「わかりました、編集長!」
 
 それからと言うもの、M野は毎日あらゆる出版社の廃墟関連本を探しては仕入れ、ついに立派な「廃墟の本」コーナーを作り上げてしまった。確かに置いてある本はなかなか面白い。前述の本を含め、『廃墟の歩き方 探索篇』(栗原亨監修、イーストプレス、¥1500)などどれもブームが納得できるほどの怪しげなオーラに満ちている。そして…、あぁ、ミイラとりがミイラ!M野自身が異常なまでの廃墟マニアと化してしまったのである。メトロのスタッフ全員はもちろんのこと、お得意様、アミュプラザ長崎のテナントさん、関係ない他の出版社の御担当者さんにまで廃墟コーナーの宣伝をしているではないか。それから数ヶ月後の十月のとある日、ついに廃墟への思いはエスカレートした。
 
 
「編集長、一緒に軍艦島に行きませんか?」
 
 通称「軍艦島」とは長崎県高島町端島のこと。長崎港から船で約1時間。海底炭坑の島で、昭和49年に閉山し無人化した。遠くから見ると島影が軍艦のように見えることから、「軍艦島」と長崎の人からは呼ばれている。ここが、現在の廃墟ブームのメッカともいうべきスポットなのである。インターネットの検索エンジンで調べると、軍艦島に関するウェブサイトは山のようにあり、見ると、軍艦島が他の廃墟よりも魅力的であることがわかる。だが実際には、危険なため上陸は禁じられている。
「もうメンバーは集めましたし、船もチャーターしました。軍艦島の近くまで寄せてもらって、船上から島をじっくり眺めるのです!出発は来週の水曜日。大波止のターミナルで待ち合わせです!」
 
 ここまで盛りあがってしまっては仕方がない。やむをえず行くことになった…。
 
 そして当日。集まった廃墟探索隊員は9名(メトロスタッフ8名+アミュプラザ長崎スタッフさん1名)。誰もがM野のせいで軍艦島のファンになってしまっている。夕方の出航のため、本来は夕陽が見えるはずだったのだが、曇り空のせいで今日は見えない。出航と同時にビールで乾杯する。滅多に経験することのない船旅に隊員たちの心は踊り、十月にしては寒い風もはじめのうちは気にならなかった。香焼のあたりにさしかかると、先日の火事で焼けてしまった「ダイヤモンドプリンセス号」が見えた。皆で記念撮影をする。
(←メトロ隊員。この頃はまだ余裕があった) 

 いよいよ外海にさしかかる、という頃、冷たい雨が降り始めた。風も激しくなってきている。同時に急に波がうねり始めた。テーブルに乗っていたビールの空き缶が転がり落ちる。隊員たちの顔にも不安の影がよぎった。M野だけが一人「まだ、大丈夫ッスよー」と上機嫌だ。さっきまで一緒に騒いでいたK隊員が真っ青な顔で具合が悪そうだ。 慌ててKを連れて、デッキから船内へ入る。波はますます荒くなってきている。デッキには波が打ち寄せ、船窓から見ると、船が大きく横揺れしているのがわかる。再びデッキに出ると、隊員たちは波に揺られて右往左往している。皆、顔は真っ青、唇は紫色だ。トイレに駆け込む姿も見える。まもなく、軍艦島の手前の島・高島が見えて来たが隊員たちにそんな余裕はない。「こんな船で大丈夫なんだろうか?」「転覆したら海は冷たかろうな」「みんな死んだらメトロ書店はどうなるんだろう?」「店長が急に今日行かないと言い出したのはこういう訳か…」との思いが渦を巻き、隊員たちは次第に無口になり始めた。ついに船は大きく上下に揺れ始めた。遊園地にバイキングという船の乗り物があるが、まさにあれだ。「頼む!どこでもいいから陸に下りたい!」タイタニックの乗客の気持ちがほんのちょっぴりわかりはじめた頃、船長さんの言葉が…「誠に申し訳ございませんが、これ以上進みますと大変危険なため、今回は軍艦島まで行かずにここで引き返させて頂きます…」。軍艦島の島影がほんのチラリと見える頃のことだった。船は高島付近でUターンし始めた。しかし今となっては隊員たちもこれ以上の波には耐えられなかっただろう。長崎港に戻り、アミュプラザ長崎の灯かりが見えてきたときには心底ホッとした。
 
 そこでずっと元気だったM野が一言。「いやぁ、残念でしたよね」

 
もうえぇっちゅうの!

(下左:ダイヤモンドプリンセス号、右:軍艦島)
 

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