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版元さんリレーエッセイ メトロ川柳 編集長の読書日記
 音の記憶  鈴木編集長

 

 『星の王子様』の中に、キツネが出てくるシーンがある。そこでキツネは王子様に、「もしおれと仲良くしてくれるなら、足音だって、今日まで聞いていたのとは違うのが聞けるんだ。ほかの足音がすると、おれは穴の中にすっこんでしまう。あんたの足音がすると、おれは音楽でも聞いている気持ちになって、穴の外へはいだすだろうね」と言う。そのくだりを読むたびに、私の記憶の中で聞こえてくる足音が2つある。

 二十歳の頃、大病を患い、一ヶ月間病院で寝たきりの生活を余儀なくされた私の元に、毎日のようにお見舞いに来てくれる友人がいた。彼は毎日大抵同じ時間に、救急病棟の長い廊下を歩いてやってきてくれた。ベッドにじっと横になっていると、癖のある歩き方が聞こえてくる。そうすると、とても嬉しくなったし、聞こえない日はがっかりしたことを憶えている。
 
 もう一つの足音は2年前に亡くなった祖父の足音だ。祖父の寝室は私の寝室の真下にあったため、夜中に祖父がお手洗いに立ったりすると足音が聞こえていた。だから、祖父の体の具合が悪くなってからは、足音が聞こえる度に耳を澄ませて、帰りの足音が遅い時には階下まで様子を見に行ったりした。その足音が次第に杖をつく音になり、やがて亡くなる数週間前には全く聞こえなくなってしまった。
 今でも、時々夜中にふと目が覚めたりすると、祖父の足音が聞こえないかと耳を済ませる自分に気づく。
 音にあふれる騒々しい世の中ではあるが、自分だけの記憶に残る音というのもあるのだなと思う。
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