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2001年11月5日号・第89号 news@metrobooks.co.jp(←原稿はこちらへ)

迷探偵・鈴木の本屋で尾行Part3
「立ち読みの実態調査」    メトロニュース編集長・鈴木綾子
2001年10月某日 午後12時より メトロ書店本店にて

 毎年、秋の読書週間の季節になると、メトロ書店本店から「立ち読み調査」の依頼がやってくる。要はお客様を尾行して、どんな本を立ち読みし、どんな本をご購入されるのか調べてほしいということだ。
 今年はないんだろうか、と思っていたら、案の定依頼が来た。依頼主は店長のN。そんなにお客様の動向が気になるなら、毎月でも調査すればよいものを一年に一度とは、可哀想に依頼料が払えないのだろう。探偵・鈴木は熱いコーヒーをすすりながら、しばし今日の段取りを考えた。「とりあえず、行くか」。決断はいつも速い方である。

 制服を着て尾行すると、お客様に身構えられてしまうので、できるだけ目立たない格好の私服に着替える。もちろん、名札も外して一般客になりすますのだ。・・・・・・ところが、おかしい。探偵としての腕が鈍ったのか、私の顔を見ると、お客様が必ず声をかけてくる。 
 「あの、この本どこにありますか?」
思わず答える。
 「こちらの棚にございます。どうぞ。」
 
 おかしい、制服も着ていないし、名札もつけていないというのに、なぜ私を店員だと思うのか。別段顔なじみのお客様というわけでもないのに・・・。そこで、ハタと気がついた。わかったぞ。私は歩くときに、顔を上げて、お客様の目を見ながら歩いているからだ。つまり、無意識のうちに、お客様に目で「いらっしゃしませ」と訴えていたので、向こうとしても私に声をかけやすかったのだろう。そう思って、店内を見てみると、お客様の視線はすべて書棚か、平台に(ま、当たり前だ)。店員の視線は書棚を確認しながらも、お客様の顔を見ながら歩いていることに気づいた。いかんいかん、私は客のふりをしていながら、店員の動きをしていたのだ。これでは探偵失格、と。できるだけお客様と目を合わせないようにして、店内を歩く。
 
 ふと、花のようなコロンの香りが微かにする。後ろを通ったお客様がつけているらしい。爽やかなショートヘアにベージュ色のニットのワンピースを着た素敵な女性だ。おや、見るとマタニティらしい。まずはギフトブックコーナーのかわいい写真立てやカレンダーを眺めていらっしゃる。生まれてくる赤ちゃんの部屋を飾るものを考えていらっしゃるのか。その後、料理書コーナーへ移動。
「WEEKDAYの朝ごはん」(幻冬舎)を立ち読み1分。「基本の和食」(オレンジページ)を丹念に読んでいる3分。特に豆腐の料理に興味があるもよう。次は何の本だろう?と思っているところへ、急にスタッフのKがやってきて、「出版社さんがお見えですよ」と大声で言う。もう、尾行中なのに!例の女性はびっくりして逃げて行ってしまった。
 
 尾行の助手が来たのかと思ったら、K談社のTさんだった。相変わらずお髭がキュートである。一旦尾行は中止して、休憩。
 30分後尾行開始。昨年は色々なお客様を尾行したにも関わらず、どなたも最終的には本を買っていかれなかったという悲惨な結果に終わり、社長を激怒させることになったので、今年はできるだけ購入されそうなお客様を尾行することにする。
 
 50代のサラリーマンの男性を尾行。まっすぐにビジネス書コーナーへ。「日本政治」の棚を眺めてから、「日本経済 生か死かの選択」
(リチャード・クー、徳間書店)を1分立ち読み。そのまま、店を出ようとして、おっ!センターレジ横の「カルロス・ゴーン」コーナーで足を止める。宣伝ビデオをしばし見つめ、「ルネッサンス」(カルロス・ゴーン、ダイヤモンド社)を手に取る。ダイヤモンド社のFさんオススメの本だ。「買って、買って」と心の中で祈る。一旦平台に戻されたのでがっかりしていると、ズボンのポケットから財布を取り出し、再び本を手に、レジへ。お買い上げ!ありがとうございます。思わず会釈。ファンファーレでも鳴らしたい気分だった。
 
 そのすぐ後、文芸書コーナーに70代男性ご来店。
『声に出して読みたい日本語』(齋藤孝、草思社)を手に取る。10秒ほどペラペラめくると、突然「春はあけぼの やうやう白くなりゆく山ぎは・・・」と本当に声に出して読み始めた。「ふんふん」と言いながら別のページをめくっていらっしゃる。その後今度は「じゅげむじゅげむごこうのすりきれ・・・」を声に出して読んでいらっしゃる。思わず、吹き出しそうになった。うーんさすがベストセラー、でも、本当に目の前で声に出して読む人を見たのは初めてだった。その後もしばらくブツブツおっしゃっていたが、そのままレジへ直行。「ありがとうございます。」
 
 そうこうしているうちに、依頼人のN店長が現れた。どうやら終了時間らしい。報酬を期待したが、逆に別の仕事を依頼されてしまった。
 
 今回お客様を尾行しているうちに感じたのは、ほとんどのお客様が、メトロ書店の棚の配置を覚えていらっしゃって、入店されると最初から自分の目的のジャンルの方向に進んでいらっしゃるということだった。後は、このお客様方をいかにして、他のコーナーにも足を向けて頂くようにするか、このことを依頼人に報告しようと、探偵は考えた。
 
 もしもあなたが立ち読みしている最中に、ふと妙な視線を感じたら、それは尾行されている証拠。
 人は立ち読みするとき、あまりにも無防備である。 ご注意下され。             (完)



*立ち読み調査Part2はこちら

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