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長崎市 T・M様 『大蛇の橋』(澤田ふじ子、幻冬舎)

 「リベンジ」という言葉を西武ライオンズの松坂投手が流行語にした。辞書によると、「復讐・雪辱」と訳してあり、日本語では、すさまじい感じがする。
時代小説作家の澤田ふじ子氏の、今回の作品『大蛇の橋』は、その復讐物の集大成だと思う。
 
 主人公の篠山藩士大滝市郎助は、お徒士組という軽輩ながら藩の行政に対しても積極的に進言し、剣の腕前も秀れている。両親と共に住み、美しい娘八重と相愛の仲である。だが、新藩主の前で数多くの身分の上の者を差し置いて「道成寺」のシテに選ばれる。市郎助は力いっぱい、まじめに人生を歩いているだけである。しかし、何事かをやりとげようという意欲もなく、日々、安直に惰眠をむさぼるだけの者にとっては、市郎助の言動は目の上のたんこぶの存在である。
 
 四人の武士から卑劣な企てを受け、左手の人さし指を失い、八重は死に追い込まれてしまう。最愛の人を失った悲しみと四人組の怒りを胸に隠し、市郎助は脱藩し、六年間の潜伏期間を経て、壮絶な復讐に乗り出す。奥深いやぶの中でくりひろげられる凄惨な復讐の場面は、そのまま市郎助の心の闇に自分の心が通じているようで、思わず頁をめくる手がストップした。
 
 作中人物の一人は、「されど人とは、神仏がこの世にこしらえた物の中で、最も愚かな生き物。強い者にへつらい、弱い立場の者をいたぶる輩は、世々、絶えはいたしますまい。かような事態は、残念ながら繰り返されましょうな。」と言っている。
 
 著者澤田氏は時代小説を通して、平成の時代の日本人が忘れている「リベンジ(復讐)」の精神を、怒りをもって表現している。理不尽なことが多い現代世相に、清々しい薫風を味わわせてくれる
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