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版元さんリレーエッセイ 井形慶子さん直筆メッセージ

 その9 光文社 販売部 H・W様 
 酒と餃子の日々
 
 アイルランドはダブリン、ゴールウエイから、九州は長崎、福岡辺り。生のギネスビールやら抜群の餃子にありつく旅のなかで、幸運にも知り合った本たちのことが忘れられない。
 
 87年の2月。ラグビー遠征チームの一員としてアイルランド島へ。ラグビーはもちろんだが、不謹慎にもアイリッシュ・パブに、褐黒のギネスに、より熱中した。練習&ゲームの合間を縫っては、ダブリン、コーク、ゴールウエイ各市で連夜のパブ通い。ギネス片手に、詩でも詠むようにささやきかけてくる老紳士。酒場の一角はときに、議論に血をたぎらせる男たちの格闘場だ。この島で作品を書き綴った作家も詩人たちも、きっとギネスの黒き海に溺れたに違いない。
 
 ある晩、西部の街ゴールウエイのパブでのこと。ケルト民族の誇り高き老漁師(たぶん)が私に言った。

「ゲール(ゲール語)こそアート」
 
 さっそく、翌日は朝から、「アート」を求めて書店巡り。ほどなくゲール語で記されているらしき書物を多数発見。見つけはしたが、心と知識は幼児、で絵本を十数冊買い込んだ。装丁は赤や黄色やグリーンのどれも淡い色合い。動物、珍獣、奇妙な生き物たちが怪しげな表情をもって活動し、何ごとかをつぶやいたりわめいたり、ときには楽器を演奏したり。ページを繰れば、郷愁や怖れに似た感情が沸いてくる不思議。私にとっての“ハリー・ポッター”です。
 
 でも、いまはその感触が懐かしい。というのも、そのほとんどは女手に渡ってしまい、いま手もとには一冊残るのみ。彼女たちは大事にしてくれているかしら・・・。

 さて、河岸を変えて中国は北京。96年春、彼の地では当時はまだ目新しい存在だったラグビー(「橄欖球」カンランチュウ=オリーブの球)の普及に情熱注ぐ、日本人留学生たちを取材しようと一路北京へ。北京随一の繁華街・王府井(ワンフーチン)で北京印のビールにのどを鳴らしては羊肉の鍋をつつき、美味なる水餃子に歓喜、歓喜。以来、はまった餃子の旅。餃子と名の付く本を買い読みあさっては食うを繰り返す。
 
 世紀末からは、一転、西池袋ラブホテル街の一角に位置する水餃子専門店『味居』が定位置になってしまう。店主はハルビン生まれの青年K。北京の大学でバイオリンを学び、天安門事件当時は彼女と二人広場で演奏したんだとうそぶく、この男の創作する水餃子は出色なり。 友人知人を巻き込み世紀をまたいでの『味居』三昧が続いたが、6月、さらにもう一転。長崎へ出張の折、メトロ書店本店野馬店長を先頭に、テーブルいっぱい並べたミニ餃子をペロリ、で大満足。やはり旅はいい、と感激の長崎から私の故郷福岡へと移動すれば。某書店の「郷土の作家」コーナーにて、名著『餃子ロード』(甲斐大策著)との幸運なる遭遇が待っていた。
 
 美しい言葉の連なりに、著者が歩んだ餃子ロードに触発されて、いまは、北京、大連、ハルビンと大陸の旅を夢見ながら杯を重ねる日々なのです。

H・W様プロフィール

光文社販売部
昭和39年5月10日生まれ。AB型。
趣味:ラグビー。おかげで耳は餃子型。


★渡辺様ありがとうございました。全く偶然なんですが、「餃子ロード」著者の甲斐大策は、小社社長の従兄弟で す。次回版元さんエッセイはO社のS様の予定です。
 

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