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編集後記 編集長の読書日記
メトロ書店会長・川崎清がちょっとひと言…
「つき」

 七月五日、ジャイアンツ対ヤクルト 第十三回戦。投手は、ヤクルト「石井」ジャイアンツ「メイ」が好投して、2対3でジャイアンツがリードして8回を迎えた。ジャイアンツとヤクルトの現在の力からすると、誰が見ても試合はジャイアンツの逃げ切りで終わると思われた。ところがこの回ヤクルトは「五十嵐」という若い速球選手をリリーフに出して来た。これを見た時に僕は、この試合ヤクルトの勝ちと確信した。あと2回しかないのに、なぜヤクルトがこの試合を勝つと思うのか、ヤクルトファンにしてみれば逆転して勝ちたいのはもちろん、僕のその時の心境は、そんな勝ちたいという希望なんかではない、もう勝ったという信念である。
 
 試合は8回、9回の表まで両軍得点なく、いよいよヤクルト最後の攻撃に入った。まず最初のバッターの古田がヒットで出塁、続く高橋がライトにうまく流して、これでノーアウト一塁三塁、ところがここでアクシデントが起こった。ジャイアンツの投手の「槙原」がワイルドピッチ、三塁ランナーがホームをふんでヤクルトは労せずして同点に追いついた。さらに続く打者が連続安打出塁して満塁、最後は真中のヒットで四対三。ヤクルトの見事な逆転勝ちとなった。
 
 その時解説者は「この男、ついてるからね」と言ったが、江本さんのいう「この男」とはサヨナラ打を放った真中のことではなく救援投手の五十嵐のことなのである。五十嵐はいまだ先発したことがなく、リリーフ専門なのだが、この試合のように逆転勝ち、逆転勝ちを重ねついにこれで十勝を挙げてセリーグ ハーラー・ダービーの単独トップに躍り出たのであった。なるほど、ついていると言えばそれまでだが、ふしぎな強運である。
 
 元来、勝負事には「つき」はつきもので、麻雀でもポーカーでも「今日はついているな」という時が必ずあるものである。うちの子は五才の時、門司のデパートで五百円の目覚まし時計を勝って、三十万円の商品券を引き当てた。終戦後まだ間もない頃で、物価も安く三十万円といえば大金であった。物資不足の時代であったからそのお金で衣類とか布団とか日用品を買って親戚中に分けてやった。抽選を引き当てた本人には、かねて欲しがっていた電気機関車と自転車を買ってやった。この子にはその頃「つき」があったのだろうか。その後もホテルのクリスマスパーティの抽選で豪華な商品をもらって来たり、続いてその他二つ三つの好運に恵まれたものである。
 
 ところがつきはそれまでだった。その後はさっぱり好運はない。つきというものは決して長く続くものではない、ということを教えられた。
 
 ふり返ってみると、僕の人生にも度々「つき」が訪れていた。そのつきがある時に手掛けた事業には成功したし、つきがない時には失敗している。まあ総じてついていた方ではなかろうか。
 
 誰にでも必ずついている時があるものだ。ただし長くはつづかない。どうか皆様、その「つき」を大切にして下さい。

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