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編集長の読書日記/現代出版社事情???

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メトロ書店会長・川崎清がちょっとひと言…
世界大戦の思い出(3)

 国会が始まると、翌日の国会での議員からの質問の要旨が連絡される。それに対して「質疑応答書」なるものを、それぞれ関係官庁で作製して大臣の答辨資料とするのであるが、その質疑応答をつくるのも僕達の仕事だった。難しいものは、担当部局に回すが、大部分の質問に対する解答は僕達が、関係資料の切り張りでつくり上げる。夕刻届いた質問の答えを大急ぎで作って、タイプに回して製本する。大抵帰宅は夜半になる。

 あれは昭和18年に入ってからだったろうか、戦線は既に仏印までのびていた。ラヂオからは相変わらず、勇ましく軍艦マーチが聞こえていたが、長引く戦争に国民は大分疲れて来ていた。こんな状態で、一体この戦争はどうなってゆくんだろう、という不安が我々をいらいらさせていた。大本営の発表通りならば、もう敵の艦隊は壊滅している筈なのに、一向に衰える気配はない。  

 そういう時期のある日、貴族院で大蔵議員が重大質問をするという連絡があったので、僕たちは大いに期待して国会に傍聴にかけつけた。大蔵さんは「今日は重大な質問を致したいので速記は一時停止して戴きたい。」と前置きして次のように質問した。 「この戦争は早、仏印まで戦線が延びているが、この先どこまでゆくのだろうか。敵の軍隊が日本本土に上陸するなどということはあり得ないが、日本もまたアメリカ本土まで 突入することは難しいのではあるまいか、よほどの奇蹟でも起こらぬ限り、それは不可能だと思う。さすれば戦争も、このあたりが潮時ではないか、お互いに話し合って和平を画 すべきではないかと思うが総理の所見をうかがいたい。」  

 堂々たる論陣であった。心ある国民の誰もが抱く気持ちだった。場内は「しん」として息詰まる一瞬、東條首相はすっくと立ち上がった。 「あなたの言われる奇蹟が今に必ず起こります。国民は軍を信じて、銃後の勤めに励んで下さい。」  答弁はただこれだけだった。  

 期待はずれの結末に、僕たちはがっかりして院をあとにする外はなかった。その後の日本はじりじりと後退をつづけ、ただひたすらに転落への道をつきすすむのであった。

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