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本店スタッフ紹介 編集長の読書日記
第一回目 中央公論新社 T・I様

 
私が湘南・茅ヶ崎に移り住んで5回目の冬を迎える。18歳で上京して以来、12年間の東京暮らしを経験しての念願の転居だった。もともと田舎育ちで、人波を避けるように街を歩いていた東京暮らし。そんな24歳の頃、一冊の本との出会いが湘南・茅ヶ崎に移り住むことを長年の夢にしたのだった。

 (春)春は風が運んでくる。
 何日も吹き続く、南からの強い風。海からの温かく湿った空気が春の生命力を地上に吹きかける。風は海面を荒らし、春の光を感じて一足早く成長していたカメを砂浜に打ち上げる。
 そして、春の風がうねりを生み出しているのを感じながら、風がやんで美しい波が姿を現わすことを心待ちにするサーファーたち。
 陽気に誘われて海に出ると、春の大潮で潮は大きく引き、顔を出した磯場で遊びながら海に足を入れ、冷たい水に驚く。海の水が温かくなるのは、春の訪れよりも遅い。

(夏)梅雨の合間に顔をのぞかす強烈な夏の太陽。それは夏の予行演習だ。梅雨が明けた途端に、夏は堰を切ったようにやって来る。同時に押し寄せる人の波。あわただしく駆け抜ける夏は、好きなのか嫌いなのか、いまだによくわからずにいるが、夏は今も特別な季節ということ。

(秋)湘南に暮らす人の多くは、きっと秋の海が一番好きなはずだ。八月が終わった途端に、あわただしく取り壊される海の家。そこには、住む人のためにだけの夏が残されている。海の水はまだ十分に温かく、夏の狂った日差しは、昼間でも快適に外で過ごせるくらいやさしくなり、空気は澄んで気持ちよく、気の合う仲間とバーベキューを楽しむにもちょうどいい季節。
 休日の午後に外出ができるくらい車は減り、夏の渋滞がなつかしく思えてくる。夫婦のお気に入りのレストランもだいぶすいてくる。サーファーにとっては、台風が波を運んでくれる最高のシーズン。
秋は、海辺で暮らす幸せを実感できる季節。
 そのうちに雷の音が聞こえ、台風が訪れ、しとしと雨が夏のかけらを奪い去り、急に肌寒さを感じて毛布を引っ張り出す時、えもいえぬ物悲しさに襲われる。ビーチサンダルからスニーカーに履き替え、短パンを長ズボンに着替える季節。

(冬)富士山の白いところが大きくなるにつれて、本格的な冬の訪れを感じる。
冬の朝の海に立つと、どこまでも透き通り、肌を冷たく刺す空気。手に届くように近い富士山。心なしか存在感を増した海は力強い。
 年に何度かの大雪が降った翌朝、サーファー達は元気に海へ向かう。雪は波を連れてくる。
 砂浜にワカメ干しの棚が知らぬ間にできて、ワカメを取るおばあちゃんの姿を見かけたら、春はもうすぐそこまで来ている。

 四季折々の湘南と日毎に変わる「光る海」を紹介してくれた本は、茅ヶ崎に移り住んで四十年、海をこよなく愛する
城山三郎さんの「湘南・海光る窓」(文藝春秋)との出会いからだ。
T・I様・プロフィール

中央公論新社・販売促進部勤務

1965年9月15日生・乙女座
血液型 B型
趣味・特技 サーフィン(5月 〜9月まで、歳なので寒くな ると休止)カワハギ釣り(10 月〜2月まで、寒くなればな るほど肝が美味しい)
自慢じゃなくて隠したい経歴  妻は横浜・有隣堂の元書店員

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