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本店スタッフ紹介 編集後記 編集長の読書日記

2000年11月5日号・第78号 news@metrobooks.co.jp(←原稿はこちらへ)

「立ち読みの実態調査」パート2 アミュプラザ本店篇 平成12年10月某日(金)午後2時より
 その日は朝から薄曇りの肌寒い日だった。探偵・鈴木はいつもよりも五分早めに起きて、念入りに服を選んだ。前回の尾行の際には、不覚にも鮮やかなワインレッドのシャツを着るという探偵らしからぬミスを犯してしまったからだ。今日の服は黒。やはり探偵は黒に限る。ふと大先輩の沢崎さんのことを思い出す。「今頃、どうしているのだろう…。」
 
 今日の予定は9月にできたばかりの
メトロ書店本店での尾行。対象はお客様。依頼人は男性のWとN。どちらも50代とおぼしいが、良きビジネスパートナーであるらしい。この本店は広い、ざっと400坪である。何せ、前回の尾行は浜町店で行ったので、相手にバレるのではないかと内心冷や冷やしたが、今回は幸い隠れるスペースもゆっくりあるので仕事がやりやすいようだ。
 探偵は熱いコーヒーを飲みながら、今日の段取りをしばし考えた。「…とりあえず、行くか」決断はいつも速いほうである。「そういえば、そろそろ読書週間だったな…」
 
 店に着くと、ちょうど目の前をMMC会員のコードネームK氏が通り過ぎる。1人目として尾行を開始。雑誌のテレビガイドを立ち読みすること10分。実は、10分という時間は立ち読みにしては長い方である。前回の調査の時、本人の体感時間よりも実際の立ち読み時間の方が圧倒的に短い、ということがわかったが、しかしそんなに長くテレビガイドを立ち読みしてどうするんだろう、と不思議に思う。まさか一ヶ月分全部暗記しているのではないだろうか、K氏のことだから案外ありうる…、なんてことを真後ろの手帳のフェア台の後ろから覗きこみながら考えていたら、突然後ろから「鈴木さん、良か店の出来たね!」とお得意様の指圧氏のIさんから大きな声をかけられる。驚いて、思わず足元のN協会の看板を蹴っ飛ばしてしまい(すみません)、あたふたしているうちに、
K氏に見つかってしまう。「やぁ、鈴木さん。」K氏そそくさと退店。1人目の尾行失敗。高をくくっていた探偵恥かしい。
 
 気を取り直して、次のお客様。黒い大きなリュックサックを背負ったバックパッカーである。20代後半ぐらいの男性。かなり大きな荷物なので、長旅なのだろうが、靴はまだきれいである。だが、どうやら地元の住民ではないようだ。まず「海外文学」の棚を3分眺める。次にぐるっと回って「ノンフィクション」の棚を30秒。そのまま右に歩いて、「紀行文」の棚へ。水を得た魚のごとく表情が変わる。棚の前で立ち読みしている人の横から覗き込んでいる。
「よっしゃ、仕入れ担当者の腕の見せ所だ」とつぶやく探偵。まず手に取ったのは「ハーモニカとカヌー」(野田友佑、小学館)。やっぱりね・・・。次は「インド人大東京をゆく」(黒田信一、青春出版社)。5分ほど紀行文の棚を眺めると、電車の時間が来たのか、急にご退店。
 
 お客様を真剣に見張っていると、店員のS原が
「へ、編集長、ふふふ・・・」と小さな声で笑いながら通り過ぎて行った。
 
 次に目についたのは、20代の清楚な印象の女性。眼鏡をかけていて、バーバリーのバッグをさげている。何となく文学少女のようで、彼女が一体どんな本を読むのか気になって後をつけるが、芸能人コーナーで立ち読み。がっかりして尾行を止める。気まぐれな探偵である。
 店内をこうして歩いていると、棚の乱れがやたらと気になる。ふと気がつくといつのまにか棚を直していたりして、いかんいかん、今私は店員ではないのだと思い直す。きょろきょろしているお客様を見かけても、「何かお探しですか?」と声をかけたくなるが、いかんいかん、今は私服なので変に思われてしまう。しかし、ウズウズする。気が気でない。 
 
 そうだ、
せっかくだから専門の人文書を見張ろう。どんなお客様が来るのだろうか、と考えていたら、秋色の服で全身を統一したおしゃれな女性が現れる。学生だろうか?文化人類学のコーナーを眺める、探偵お気に入りの棚だけに 内心喜ぶが1分で終了。ふりかえって、 心理学の棚を 眺める。「お、彼女は心理学専攻か?」 棚を全体的に眺めること2分。おもむろに持っていたバッグを床に置くと、 真剣に選書を始めた。ヒーリングの本、 心理学エッセイなどを見て、まず手に 取った本は、「孤独と上手につきあう」 (A・ロマニス、東京図書)。「え、彼女は孤独なのか!?」と一瞬ドラマを 感じるも、上の段の隙間のあいた所にその本を入れて下さる。どうやら整理好きな方らしい(お恥かしい…)。次の本は「ゆるすということ」(ジェラルド・G・ジャンポールスキー、サンマーク出版)5分読んで、「親と子の絆」(河合隼雄、創元社)5分。うーん、最後に何を買われるのか気になるけれど、これは時間がかかりそうだなと、港の見える窓コーナーに移動。
 
 ここは椅子はしっかり埋まっていて、そのうちの若い女性はどうやらコンピュータ書を読んでいる模様。もう1人若い男性は上半身をかなり折って読んでいるので、何の本だかは不明だが4分の3ほど読み進んでおり、かなり長い時間ここで座り読みをしているのがわかる。ウーム、制服を着ていればここで注意するのだが…などとケチなことを考える。
 
 趣味のコーナーへ移動。店員のM野が日本シリーズ対決フェア台を作って満足そうな顔をしているが、ダイエーファンの副店長はジャイアンツの本ばかりが目立っているような気がする、と不服そうだ。私も心の中で賛成する。
 
 すると、その時「おいは大分読んどっとよー」という声が聞こえてきた。見れば、カップルが腕を組んで歩いてくる。どうやら彼氏の方が彼女に自分の読書量を自慢しているようだ。どら、お手並み拝見、と尾行を開始。一体彼はどんな本を彼女に薦めるんだろうか、と見ていると、専門書のコーナーをぐるりと回って、趣味のコーナーを通り、文庫コーナーを通り、レジを通る。日本文学で曲がって、雑誌へ移動して、そのまま退店。何だ、単に彼女と腕を組んで散歩するのを楽しんでいるだけじゃないか、とがっかりする。しかしラ
ブラブカップルは声が大きくて、尾行しやすい
 
 と、そこで依頼人のWが現れた。どうやら終了時間らしい。報酬を期待したが、逆に別の仕事を依頼されてしまった。そもそも彼は私が探偵であることを忘れてしまっているらしい。
 
 今日の感じではオープン後一ヶ月で、お客様がどこに何の本があるのかを大分覚えていらっしゃったような気がした。ありがとうございます。
 さて、次の任務はいつだろうか。
 探偵は今日も長崎の街を駆け抜けるのであった。

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