「女に向かない商売」7ページ目(最終頁)

ところが(探偵事務所)では私がすでに犯人になっていた。

ミセス真青が、健サンが昨夜来たことを仲間に話したらしい。

「なにをやったの?コロシ?ユーカイ?ゴートー?でも探偵が犯人って素敵じゃない?」
とのたまったのは(謎の歌姫)と自称するハレスキー女史である。店の常連でアリアを歌
わせるのに適した体型をしている。

 ほんとうに歌手かどうか知らないが、同じマンションの住人がドア越しにその美声を聞
いた、というのだ。ステレオを鳴らしていたのではないか、という人もいる。流れていた
曲はサイモン&ガーファンクルの(スカボロフェア・詠唱)、プッチーニの(マダム・バ
タフライ)の有名なサワリ、と聞いた人もいる。今日のいでたちは臙脂のガウンに同じ生
地製のポシェットでキメている。が、チラリと見えたオミアシには桐の下駄を引っ掛けて
いる。

「でも探偵だ犯人って最近なんとか賞を取った小説にあったわよ。これってシマリの悪い
話よね」女史は高そうな指輪をガウンにこすりつけながら言った。「でもベンゴシ要るわ
よね」

「コーヒーをくれないか」私はカウンター内にいるアッシュ嬢にいった。アッシュ嬢はロ
ーレン・バコールみたいに上目使いで頷き、ピーカンを私の前に置いた。

「ベンゴシも大勢必要になるよ。だってここにくる全員が容疑者なんだから」私はハレス
キー女史から居並ぶ面々に目をやった。

「事件は窃盗目的の侵入。盗られたものは判明していない。だから今んとこは不法侵入。
が、侵入先のパソコンを立ち上げデータをフロッピーに複製された可能性がある。困った
ことにこのフロッピーには我々の名前、年齢、住所をはじめ、ないとおもうが犯歴、性癖
までうちこまれていたんだ。で、お馴染みの健サンが私に会いに来たというワケ。残念な
ことに私には、事件当夜の確固とした現場不在証明、アリバイがないのさ」

 アッシュ嬢が私専用のマグにコーヒーを入れ滑らせてきた。目遣いはバコールからゲイ
ル・ラッセルに変って問いかけている。

「そう。キミのアリバイも知りたがるよ、健サンは」私は彼女に言った。

 キーッと鳴き声がした。このビルの三階に住むおばさん、キーママンの飼い猫だ。開け
放したドアから入ってくると、編物をしているミセス真青の膝に飛び乗った。この猫を骨
にするときはサービスだな。私はそう思っている。

 キーママンは文明の利器を嫌う。電話はいまどきの子供も遊ばない糸電話で、その一方
が目立たない天井に一隅からぶらさがっている。
「キーママンもアリバイが要るよ」私は彼女に聞えるように大きな声で言った。


以下 全員がアリバイを書くこと。諸条件は本文中を参照。
書けた人から mmc@metrobooks.co.jp へメールで送ること。
最終締めきりは、9月13日例会にて。

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