「女に向かない商売」6ページ目

翌日は昼過ぎまで雨が残った。
 
 私は雨の上がったのを閲覧室で知った。早起きし県立図書館に来ていたのだ。私はここ
数年分の地元紙を丹念に目を通していた。それも三面記事のみを、である。
 
 なにを知りたかったかというと、繁華街に入った泥棒の記事だ。それも捕まったヤツを
知りたい。

 今から遡ること三年ほど前に、そいつの記事が六行にまとめられていた。当然 写真など
は載せてないし正確な住所もない。それでも私はメモを取り、疲れた目を窓外に向けて雨
の止んだのを知ったワケだ。
 
 私は県立図書館のロビーから健サンに電話を入れた。
「昼メシ食べた?」
「探偵さんかい。奢ろうってのかい?そいつは豪儀だが下心が匂う」健サンはわりと明る
い声で答えて続けた。「相棒は愛妻弁当を食ってやがる」
 
 私は落ち合う場所を教えた。天ぷら屋である。豪勢にきこえるがこの天ぷら屋は並と上
の天ぷら定食しかなく、上でも千円から釣りがくる。そして(安かろう旨かろう)なのだ。

「割り勘だぞ」少し遅れてきた健サンは運ばれてきた上の定食をみて言った。「で、なに
が知りたい?」と小声になる。

「食べながらにしようや」私はおろし大根をタレのなかに入れた。

 健サンは吸い物に口をつけるとモゴモゴ言った。たぶん(うまい)と言ったのだろう。
ものも言わず揚げたての天ぷらとご飯を飲み下す。味わうのは後になるらしい。

「うまいな」ご飯を平らげてから健サンがやっと言った。「お代わりいいのかな?」彼の
天ぷらはまだ残っている。

 私は女将さんに合図してお代わりを貰い、私のエビ天を彼の皿に移した。

「で、なにが知りたい?探偵さんよ」彼は移したばかりのエビ天を食べながら聞いた。エ
ビ天は尻尾まで彼の胃袋に納まった。エビでタイが釣れるかな

 私はいま調べてきた内容を話し、最後に付け加えた。「新聞種になったヤツに会いたい。
ヤツが犯人じゃないだろうが、その道の方の意見を聞きたいんだ。生憎その道には疎いん
でね」

 健サンは咀嚼しながらポケットからメモ帳を取り出すと、私が話した名前を鉛筆で書き
込んだ。これで割り勘の話がなくなった。支払いは私だ。

「多分、ほかの連中が調べているだろう」外に出てから健サンが言った。口には爪楊枝が
突き出ている。「オレと相棒は別の角度から洗っているんだが」歯切れが悪い。所属が違
うのだ。「連絡する」彼はそう言い残すとさっさと立ち去った。昼食の礼も言わない。

私は彼の後姿を見送り、傘を持って(探偵事務所)に向かった。例え私が犯人であって
も、彼の手錠は受けたくない、と思いながら。

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