MMCバーチャル探偵事務所を舞台に、ついに小説化!!リレー小説第1部
各会員はこの小説を元に、自分のアリバイを立証すること。
提出締め切り9/13
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『女に向かない商売』 矢の平マー老

 (過去を思い出すのは、未来が残部僅少になったからだ。子供の頃は過去を思い出
さなかっただろう?)
 そう言ったヤツがいた。だが人間、待つという時間にとっぷり浸かると、頭の中に
この過去という記憶が湧き上がるものだ。だが思い出に浸っている場合ばかりじゃな
い。
 繁華街のアーケードの天井、外側庇の部分にうずくまっている人影も、思い出を頭
の中から追い出し、また腕時計を覗いた。時間は午後十一時を二十分ほど回っている。
十五米ほど下の通りは人通りも少なくなっていた。人影は空を仰いだ。夕方から拡が
った雲は立ち去りもせずこの街の上空を覆っている。天気予報では明日の夜には雨、
と言っていた。

(あと二時間・・・か)人影は自分に言い聞かせるとポケットから接着剤を取り出し、
まず左手の指先に塗り始めた。

  アーケードからのあかりで指先を塗りながら、人影は侵入経路をもう一度おさら
いしてみた。




「娘さんをお預かりしています。また連絡しますのでお待ちください」電話はそうい
うと切れた。

女性の声だが無機質なコンピュータの合成音声だった。

「もしもし、もしもし・・・」電話を受けたのは母親で、内容を理解するのに数秒か
かった。電話は寝室にあり番号を知っているのは限られた人たちである。

(娘っていうと、コリンのこと?)母親は思った。大金持ちはおっとりしている。小
金持ちは減らさないようにセコセコしている。コリンの家は前者で大がつく富豪だが、
ごく当たり前の木造二階建てに母子で住んでいる。父親は死亡したと認定されており、
生前、海外を飛び回り、美術品売買を片手間にしていた、と知ったのは一通の封筒が
銀行の貸し金庫から出てきたからだ。封筒の中身は世界屈指のオークション屋「サザ
ビース」の預かり状だった。父親は中堅商社の営業担当重役で日本には年の半分もい
なかった。

(おれは畳の上でな死ねないだろうな)そう言っていた父親は、アリゾナの砂漠で行
方を絶った。(ほんもののUFОを買い付けに行く)と言って・・・・。目的地のエリ
ア51まで到達し、ミイラとりがミイラになったらしい。

 封筒を手にした母子は(これは私たちだけのヒミツ)にした。カネの亡者に悟られ
ないこと。

「サザビース」で売却された美術品の代金はスイスの銀行に送られ、母子は時折 ヨ
ーロッパ旅行する。それまでの小金持ちから大金持ちにランクアップしたのだ。留守
中は遠縁にあたり、ビルの警備員をしている利腕という青年に来てもらうが、この青
年、競馬が大好きである。

 電話を置いた母親は二階の部屋に上がった。二階は娘のコリンが使っている。
 ドアを叩いても返事がないので開けた。ベッドはからだった。室内は整然としてお
りフロアスタンドのあかりが弱になっている。

(あら、ほんとにいないわ)母親はまだおっとり構えていた。(外出するならするっ
て言えばいいのにネ)

 部屋をひとわたり見回してから母親は階下の寝室に戻ってきた。

(だれかが悪戯しているんだわ。でも、朝になって戻らなかったら利腕サンにでも連
絡しましょ)

 母親・とりあえずハッピーはパラマウントベッドに戻った。目覚時計を確認する。
午前一時十分だった。目覚時計は明朝七時にセットしてある。明日はゴミ出しの日な
のだ。

 母親・とりあえずハッピーが、コリンの部屋の窓の下に立てかけて木製のハシゴを
見つけたのは、燃えるゴミ大袋を出した帰りであった。彼女はリンドバーグ愛児誘拐
事件でも木製ハシゴが使われていたことを知っていた。


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